行き道

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行き道

おはようございます、皆様。 今日もお早いですね。そんなに暇なのでしょうか? 私?しがない吸血鬼の庭師である私は、こう見えても毎日忙しいのですよ。 それはそうと。 今回は森の一画にある小さな一軒屋についてお話をしましょう。 その一軒屋には一人の魔女が住んでおります。 毎日毎朝その一軒屋からは美味しそうな良い匂いのする煙が立ち上がります。 ほら、今日もこのように。 堪らなく食欲をそそる、アレが焼ける香ばしい匂い。 (きゅるるるる~) おや、失礼。 まだ朝食が済んでいないので、あの味を思い出したら思わず鳴ってしまいました。 私だけではありませんよ。 彼女の作り出すアレに魅了されて訪れる者は後を絶ちません。 私たちは親しみを込めてその場所をこう呼びます。 『魔女のパン屋』と。 わかりやすいでしょう? なんですか、その顔は。 魔女がパンを焼くのがそんなにおかしいのですか?せっかく連れて行って差し上げているのに。 わかりました。 残念ですがここでお別れですね。この近くには人を襲う獣や養分とする植物、食事にしようとする魔物がたくさん住んでいますが… そうですか。ここでお別れですね。 地面に額をつけて謝れば許さないこともありませんよ? よろしい。 その魔女ですが。 特別に魔力が高かったり、魔術を扱うことに長けている方ではありません。 魔力は魔法を生み出す力の源。 魔術は魔法を使う方法。 この世界には魔法を使う存在はたくさんおります。私の仕える奥さまも、湖に棲む人魚もその性質上何かしらの魔法を扱います。 その中でも専門家とも言える種族があります。 それが魔王、魔女、魔術師、魔導師、魔法使いといった名前に「魔」が付く種族。 魔王はまた話が少し異なってきますが、それを別とすれば魔女は際立って魔法に長けています。 その中で秀でた才能をお持ちではない彼女がなぜ「魔女」と呼ばれるか。 話は簡単。他の誰もが使うことのできない魔法をお使いになられるのです。 「できない」のではないかもしれませんが、少なくとも私は今まで他の誰かが同じ魔法を使っているのを見たことがありません。 その魔法とは、パンを焼くという… 冗談です。 冗談ですってば。 こほん。 その魔女は毎朝パンを焼きます。そして、それらを売ったり交換したりして生活をなさっています。 私も今日は屋敷の薔薇で作ったジャムを彼女へ差し上げるつもりでここまで来ております。 パンはとても人気です。 人にも。そうでないものたちにも。 ですが、それでもパンは残ることがあります。 可愛らしい動物の形をしたパンたち。 そのままでは次の日の朝には腐ってしまう。 そこで彼女は魔法を使うのです。 パンに命を注ぎ込むという魔法を。
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