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台詞と事実
「それにしても、還暦間近の老人二人が、見えもしない紅葉の中で自分探しに近い事をやってるっていうのは、なんだかアナーキーじゃあないですか」
「アナーキーかどうかは分かりませんが、なんとも言えない感じは、ありますね」
「それで、霧生さん。ご家族のヒントの、一つでも見つかりましたか?」
「いやいや、全くです。津波で全部、私の視力と一緒に持っていかれたままです」
「そうですか」
「いや、自分が発見された所までは分かったんですけどね。そもそも、幼過ぎて記憶もないものですから、やはり、やりようがありませんでした。木下さんの方は?」
「私の方もさっぱりです。生まれがここだってこと以外、自分がどこで保護されたかも分からず終いで。何人家族だったのかすら分かりませんでした」
「そうでしたか」
「津波で全部、私の視力と一緒に持っていかれたままです」
「それは、私のよく出来た台詞です」
「格好良く聞こえたので、使わせて頂きました」
「勝手に使わないでくださいよ」
「良いじゃないですか。事実なんですから」
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