たった一人の入社式

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   私は刃矢菜さんに案内され、社長室へと入って行く。社長は皮張りの豪華な椅子に座って、私達を見つめる。 「君が今回、採用になった風花さんですか。よろしくお願いします。会社の為にこれから頑張って下さい」  社長と握手を交わす。  若い!  それが第一印象だった。恐らく年齢は三十五歳くらい。身長は百八十センチ近くあるだろうか。体つきはかなり鍛えている感じがする。髪は短く綺麗に整えていて、目鼻立ちはくっきりとしていて、引き締まった口元、全体的に引き締った顔立ちだ。  はっきり言って、イケメンと言う事だ。  そして、社長の名前は、裕樹 悠馬(ひろき ゆうま) 「刃矢菜さん。彼女に制服を渡して。それと、仕事の説明は僕の方でやるから大丈夫だよ」 「分かりました。今、準備をします」  刃矢菜さんは会釈をして、社長室を後にする。  社長自ら、仕事の説明って……。 「大丈夫。緊張しないで。そこのソファーに座ってゆっくりしていてよ」  私は社長の指示に従い、ソファーに腰を下ろす。  刃矢菜さんが、制服を持って、社長室に入ってきた。 「風花さんの制服を準備しました」 「ありがとう。そこに置いといて」  刃矢菜さんは私の制服をテーブルの上に置き、社長室を出て行く。 「制服を着てみてよ」  社長からのいきなりの指示に驚きを隠せない。 「こっ、ここで、ですか?」 「特に問題でも。僕の指示に従えないのかな」  社長の指示は絶対。  刃矢菜さんに入社前から、何度も言われてきた事が、頭の中に瞬時に浮かび上がり、ぞくと背筋に寒気が走る。 「はっ、はい。分かりました」  焦りが声に出てしまい、早口での回答になってしまう。  私は立ち上がり、震える指でスーツのボタンを外し始める。震えが身体全体に伝わってしまい、動きがぎこちなくなってしまう。  スーツを脱ぎ、会社の制服に着替える。服の生地の擦れ合う音が、つまらない緊張感を生み出す。  色は黒でダークな感じのもの。微かに白い縦の細く細かい線が入っている感じ。 「似合っているね。良かった。スカートも履き換えてくれるかな」 「えっ。スカートもですか?ここで」 「問題でも」 「いえ……着替えます」  気になるのは社長の鋭い目つき。異常なほどに感じる私の体への熱視線。  両脚の震えが酷くなる。震えを抑えようとするけど、止まらない。必死にスカートを下ろそうとするが、上手くいかない。いつもより、かなり時間がかかってしまっている気がした。  何度か躓きそうになり、何とかスカートを履くことが出来たけど……。  会社の制服にしては、スカート丈が短いのでは……。  太ももは太いし……。  お尻も丸くて大きいし……。  こんな短いスカートでは太ももが露わになってしまう。  嫌だな……。  胸は自慢できるほどの大きさでもないし……。  ウエストだって……。 きゅっと締まっている訳じゃない。  制服自体が身体にジャストフィットしていて、身体のラインがくっきりと露わになってしまっている感がある。  制服に着替えた時に伝わってくるものは、違和感でしかない。  けど、今、感じているものは、私の着替えている行為に注がれた、畏怖の念さえ抱かせるほどの社長の視線。 「良かった。ぴったりだね。とても似合っているよ」  社長はとても喜んでいるけど……。  私の心は恥ずかしさで満たされてしまい、顔に火照りを感じ、身体が今も微かに震えている。  着替えが終わり、社長自らの仕事の説明が行われた。スケジュールの管理は刃矢菜さんが行っているから大丈夫とのことだった。私が当面行う事は、社長の一日のスケジュールを把握して、社長と行動を共にするとの事だった。  本当にそれだけで良いのか……。  いや……。  社長の指示は何があるか分からない……。  頭の中が一気に不安で満たされていく。  社長の目の前で会社の制服に着替えるなんて、普通じゃない。  私の前途は嫌な予感と言うマイナス思考でしっかりと塗り固められ、立ち往生しているような状態になってしまった……。  
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