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打ち込まれた楔
パソコンのキーボードを叩く音に気がつく。私はベッドの上にいた。
いつから此処に……。
分からない……。
社長に身体を撫で回され続けて……。
意識を失ってしまったのだろうか。
「お目覚めかな」
刃矢菜さんの声に驚き、上体を起こす。
思わず白いシーツで身体を隠す。黒い下着を付けているだけの状態で、私は刃矢菜さんのベッドの上で寝ていたのだ。
「気にしなくて良いわよ。女同士だし、この部屋には私以外はいないことになっているから」
「この部屋は……。私をここまで運んでくれたのですか……」
「ここは会社の中。社長が貴方をここまで運んできたの。面倒を見て欲しいって」
会社の中にプライベートな部屋を持っているって……。刃矢菜さんって一体……。
「風花さん。秘書ってこの会社じゃ特権階級なの。殆どの我儘が通るわ」
刃矢菜さんは得意げに話しかけてくる。
「社長の指示に従っていれば……と言う事ですか」
「そうよ。昨日は社長に少し遊んで貰ったんでしよう。楽しかった?」
「楽しい訳ないじゃないですか!下着一枚になって、体中を撫で回されて!」
私は大声で刃矢菜さんに怒鳴りつける。
「私に怒鳴られてもね。困ったわね。じゃ、どうするの?社長を訴える」
刃矢菜さんなら社長を擁護するようなことを言うと思ったけど、意外な言葉が帰ってきたので驚いた。
「訴えるわよ!こんなのあり得ない!絶対に許さない」
「好きにしたら。ただし、千人近い社員を不幸にすることをしっかりと頭の中に思い描く事ね。その責任を貴方が背負えるかしら」
刃矢菜さんの強い語意に、思考が不意に停止する。
「貴方一人の満足と千人近い社員の未来、どちらの価値が高いかしら」
追い打ちをかけられ、黙り込んでしまい、俯くだけになってしまった。
「私みたいに割り切って、この会社での特権を楽しみましよう。悪くないとおもうけど」
私が訴えてしまえば、会社も経営が立ちいかなくなってしまい、多くの人が不幸になってしまう。他の選択肢として、会社を黙って去ると言う方法もあるが、それでは自分のその後がどうにもならない。
社長の指示に従い続け、会社にいるしか手がないのか……。
「どうしたの?風花さん。賢い選択をしましよう」
「はっ、はいっ……分かりました。よろしくお願いします」
最初の勢いはあっという間に消し飛ばされ、いつもと同じおどおどした態度で、ただ返事をするだけだった。
「分かったようね。可愛いだけで、並より下の貴方が、ここでは特権階級!わるくないでしよう。今日はどうするの?」
「着替えて出勤します」
「速く着替えなさい。貴方の制服、そこに準備しておいたから。それに、もう出勤時間よ。最もここは会社だけどね」
刃矢菜さんが笑いながら話している中、私はベッドから力なく立ち上がり、制服に着替えた。
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