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合う+会う
あの頃、彼が何かを隠しているのはなんとなく分かっていた。
それとなく聞いてみたけど、優しい彼は私に気を使ってか「大丈夫」以外口にしてくれなかった。
……私は、そんなに頼りなかったのかな。
私は力なく垂れているだけだった腕に力を込めた。
彼が、あの日、少し無理して予定を合わせていたのを知っていた。しばらくデートを出来ていなかったから、その穴埋めとして頑張ってるんだと深く考えないようにしていた。
だけど、迎えにきた彼を見て確信した。彼は何か覚悟を決めたんだって。
あの場所で握ってくれた彼の指先が冷えていた。込める力がいつもより優しかった。少し、震えていた。
でも、その全てが私に言っていた。
『好き』だと。
なのに、あなたは私の手を離して消えた。どこかで幸せになっていると思っていた。……あなたの幸せを願っていた。
…なのに。
「…どうして……こんなことになってるの…?」
冷たく白い病室の真ん中で、同じくらい白い顔をした彼が眠っている。さっき、先生から「もう覚悟をしていてください」と言われた。握る彼の手はまだ温かい。
泣き疲れてか、日が沈みかけた頃、私はベッドに突っ伏して寝てしまっていた。
目を覚ますとあたりは真っ暗で、看護師さんがかけてくれたらしい毛布が背中にあった。私はまだ握られた彼の手を強く握る。心なしか冷たく感じた。
ハッと彼の顔を見たが、変わらず白い顔をしていた。繋がれた機械からは「ピッ。ピッ」とリズム良く高い音が鳴っていて、高鳴った胸の音を落ち着けた。
少しの間、私は彼の寝顔を見つめた。リズムの良いBGMが私を安心させる。彼はまだ生きているんだと。
どのくらい経ったのか、窓から白い光が差し込んできた。外に目をやると向こうの山から朝日が顔を出している。
「ほら、日の出だよ。…起きて。一緒に、見るんでしょ……?」
彼は返事の代わりに、乾いた音を響かせた。
ピーーーーーーーッ。
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