いつもの朝

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いつもの朝

およよ、こんな夢ってあるんでしょうか。 ベッドから起き上がると、まだ半分夢の中にいるような、不思議な感覚でした。 そしてそれは、あまりに素敵な夢だったので、誰にも言わず胸の内にしまっておくことにしました。 だって、見た夢は誰にも言わなければ正夢になると言いますから。私は、この日見た夢を大好きなお母さんにも言わずに黙っておくことにしました。 「真美ちゃーん、起きなさーい!学校遅刻するわよー。」 ほら、1階のリビングからお母さんの声がします。私は眠い目をこすりつつ、階段を下りました。 「うーん、まだ眠いよう。」 私のような子供が早起きするなんて、全くおかしな話です。子供は朝は遅い時間に起きた方が賢くなると、クラスの知樹君も言っていました。だからと言って優斗君のようにいつも遅刻するのは良くないと思いますが。 「ほら、今日はね、お母さんがロールパン焼いたのよ。良い匂いでしょ。焼きたてが一番美味しいのよ。」 「やった!お母さんのロールパン、久しぶりだ!」 私は飛び上がって喜びました。お母さんのロールパンは、小学校に行く途中にあるパン屋さんのよりも美味しいのです。パン生地の焼きあがった香ばしい匂いが家じゅうにただよっています。毎朝、お母さんの料理の匂いを嗅ぐだけで、私は幸せな気持ちになります。 「真美ちゃんほら、苺ジャムもママのお手製なのよ。お家で育ててる苺は、そのまま食べると酸っぱいけど、ジャムにするとちょうどいいの。美味しくできてると良いんだけど。」 美味しいに決まっています。お母さんのつくるご飯は世界一なのですから。ロールパンだけではありません。とろりとした半熟のスクランブルエッグも、こんがりと焼いたベーコンも、みずみずしいフルーツサラダも全てが絶品です。 「お母さん、美味しい!」 お母さんはエプロンを脱ぎながら、にっこりと微笑みます。 「良かった。お母さんね、お仕事だからもうすぐでなくちゃいけないの。戸締りよろしくね、真美ちゃん。」 「はーい、行ってらっしゃい。」 料理が美味しいのも当然の話で、お母さんは人気の美人料理研究家として、テレビや雑誌で活躍しています。お父さんは会社で、朝から晩まで働いています。よく出張で行った、様々な国のお土産を買ってきてくれます。でも、同じ家に住んでいるのに、お父さんにはめったに会いません。今日はきっと、私がまだ夢の中にいた時、すでにお父さんはお仕事に行ったに違いありません。お母さんは今日も朝から収録があるのでしょう。小さい時からこの環境に慣れっこだった私は、小学一年生から、学校に行く前は自分で戸締りをします。忘れ物も遅刻もしたことありません。学校から帰ると、自分で鍵を開けて宿題をします。そのあとはお母さんが帰ってくるまで、冷蔵庫に入ってあるお母さんが作ったデザートを食べながら、読書をするのが日課なのです。 「じゃ、お母さんもう行くから。気を付けて学校に行ってね。」 「大丈夫だよ、お仕事頑張ってね、お母さん!」 お母さんはにっこり笑って、手を振りながら玄関を出ました。
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