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真美の宣言
家に帰ると、お母さんが温かいご飯を用意して待ってくれています。お仕事が忙しくても、私の夜ご飯は絶対に作って待ってくれています。どうしても間に合わなかった場合は、レンジでチンして、食べられるように準備してくれます。
「おかえり、真美ちゃん。今日は真美ちゃんの大好きなチキン南蛮よ。よく、手を洗ってね。」
「はーい。」
学校が終わると、私はしばらく校庭や、友達の家で遊んでから、お家に帰るのが日課でした。遊び疲れてへとへとになって、家に帰ると、ちょうどお母さんの料理が食卓に並んでいるという具合です。
「お父さんの分も残しておいてね、真美ちゃん。」
「うん!お母さんは今日も食べないの?お母さんのチキン南蛮、すごく美味しい!お母さんも食べようよ。」
「あらあらいいのよ、お母さんは。真美ちゃんのために作ったんだから。真美ちゃんがいっぱい食べてくれれば、お母さんはすごく嬉しいの。」
実際お母さんは、ほんの少ししかご飯を食べません。自分で作ったおかずにはほとんど口をつけずに、スーパーで買った袋入りのサラダと、申し訳程度のサンドイッチをつまむ程度です。
「お母さん、いっぱい食べないと体に悪いよって言ってるじゃない。」
「真美ちゃんぐらいの年はね、いっぱい食べた方がいいの。でも、お母さんみたいにおばちゃんになると、食べ過ぎはむしろ体に毒なのよ。」
おばちゃんだなんてそんなことはありません。お母さんはとても綺麗です。授業参観に来ると、デブでブスの自分が恥ずかしくなるぐらい、美しいお母さんです。
「そういえばね、今日ドッジボールのチームに入らないかって、誘われちゃった。」
「まあすごいじゃない!お母さんもこう見えて、バレー部だったのよ、ドッジボール入ってみる?真美ちゃん。」
「やだよー、遊ぶ時間が減っちゃうもん。」
「そうね、いっつも役場の鐘が鳴るまで、遊びほうけてくるんですもんね。」
食べるものが違っても、お母さんと食卓を囲んでいる時はとても幸せです。学校で起こった楽しい話や、お母さんの職場の話をするのが、とても楽しいです。
「ただいまー、今日は早く帰れたぞ。」
玄関先からお父さんの声が聞こえました。こんな時間に帰ってくるのは、とても珍しいです。いつもはお仕事が忙しくて、会社で寝ることもあるそうですから。
「あら!今日は真美と一緒にご飯が食べれるわよ。早く帰ってきてくれて良かったわ!」
「おー、そうかそうか。学校はどうだ、真美。」
食卓に入ってきたお父さんは私とお母さんの正面に腰掛けました。
「今日ね、ドッジボールしたよお父さん。クラブに勧誘された。」
「すごいじゃないか、真美!いつも早く帰ってこれなくてごめんな。学校の話、たくさん聞かせてくれ。」
お父さんは家にあまりいませんが、帰ってきたときはとても優しいです。もちろん、お母さんと同じぐらい、お父さんのことが好きです。
「真美、勉強はどうだ?」
「算数が最近難しくなってきた。」
「真美ちゃん、遊ぶ時間が減るから塾に行くのは絶対嫌だっていうのよ。最近は、塾に行ってる子に学校で教えてもらってるみたい。」
「子供のうちはたくさん遊ぶのが大事だからなー、ただ、分からないことはできるだけ無いようにしておきなさい、真美。」
「わかってるよ。」
お母さんもお父さんも勉強しなさいとは、決して言いません。でも、そうすると逆に勉強しないといけないな、と思えてきます。
「ところで真美、クラスに好きな男の子とか、格好良い男の子とかはいないのか。いたら、必ず父さんのところに連れてこいよ。」
お父さんが冗談交じりにこう言いました。私は、お父さんの言葉を反芻しながら、お母さんとお父さんの顔を見ました。
「やだ、あなた。真美も年頃なんだから、止めなさいよ。お父さんのところに連れてこなくたっていいからね、真美ちゃん。お母さんには教えてね。」
一瞬固まった空気をお母さんがほぐしてくれました。でも、なんておかしなことでしょう。私は、今のお母さんの言葉を聞いて、心を決めたのです。
「お父さん、お母さん。私、ダイエットする。」
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