生きる理由

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生きる理由

 どうした、昨日の俺。何考えてたんだ。検索履歴が「生きる意味」とか「生きる価値」とか。まあいい。とりあえず今は仕事をしよう。  自分の部屋でデータ入力の仕事をしていると、スマホがブルブル震えた。どうせメールマガジンか何かだろうとスマホに目を向けることなくパソコンのキーボードを打ち続けた。  しかし、スマホはしつこく震えていることから、電話の着信であることに気づく。スマホを見て悪寒が走った。ディスプレイには「鬼」と表示されていた。「鬼」、読み方は「あね」だ。そう、俺には鬼のような姉がいる。直接鬼と呼んだら殺されるから、登録名をひっそり「鬼」にしているのだ。  出たくない。反射的にそう思ったが、出なかったら後が怖い。仕方なくスマホ画面上の受話器のマークをタップした。 「もしもし」 「斗哉(とうや)!?」  姉のきつい声が耳を貫く。どうして名前を呼ばれるだけで怒られた気分にならないといけないんだ。  「お母さんがおかず作りすぎちゃったから、貰いに来いだって」  俺の返事を聞きもせず要件だけ言って、姉は電話を切った。なんのおかずなのかぐらい言えよ。   「はあ」  俺は溜め息をついた。実家なんて行きたくない。俺が体を壊して失業保険をもらいながら実家で療養していたときも、姉はニートだの早く働けだのとやいやい言い、在宅でできる仕事を始めてもニート呼ばわりは変わらず、逃げるように家を出た。そんな姉は離婚して姪を連れて実家に戻ってきたシングルマザーだ。 「働きもしない大人が家にいたら子供に悪影響なのよ」  と何度となく言われ、姉も大概じゃないかと言うとさらに怒鳴られ拳が飛んでくる。俺が姉にどんな仕打ちを受けても母も「あんたも男なんだからしっかりしなさい」と言うだけ。父は俺が物心つく前に病死した。男が弱い家系なんだろう。  そんな、母と姉と姪という女しかいない実家に、俺はちっとも行きたくなかった。おかずなんていらねーよ。実家は歩いて行ける距離だが、だるい。腹は減ってるけど。  その夜は適当にカップラーメンを食べた。  それから数日後、俺は身体動かなくなった。体が重くて起き上がれない。パソコンの作業すらできず、これはやばいと思った。タクシーを使って病院へ行った。  
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