植物

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植物

 誰かに「あなたが生きていてくれないと困る」と思われたい――  確かにそう思った。  だけどその結果、どうしてこうなった?  俺は、部屋の隅に佇むサボテンを見つめた。  何かにあてにされたい、そう思った俺は、体調が少し回復するとすぐホームセンターに向かった。植物を育てようと思ったのだ。動物を飼うことも考えたが、動物を飼うのは相応の責任が必要だし、とりあえず植物にしてみようと思った。ミニトマトやナスなどの家庭菜園の定番の植物が目に入る。家庭菜園もいいかもしれない。住んでるの古民家だから庭はあるし。だけど俺野菜きらいなんだよな。ミニトマトもナスを食わねえから育ててもしょうがねえや。花の鉢植えが目に入る。花に疎いからあまり心が動かない。いやそもそも家の中で生命を感じたいというか、家に籠もっているときに世話をするものが欲しいのだから、庭先で育てる花じゃなくて観葉植物にしよう。観葉植物で、育てやすいのが欲しい。買ってきてすぐ枯れられると悲しくなるからできるだけ生命力の強いやつにしよう。  このような考えの結果サボテンである。縦に伸びるタイプの柱サボテン。今のところ俺の膝ぐらいの高さだ。  小さい机とパソコンと布団、そして本棚しかなかった部屋に少し彩りが出た。  日当たりのいいところに置くように注意すれば、水やりも毎日しなくてもいいという育てやすさ。青々としていて実に頼もしい。  うん。たしかに育てやすいし、たとえ俺が二、三日寝込んだところで問題ない。  しかし、なんだ。なんか本来の目的からそれてないか。誰かにあてにされたかったんじゃなかったのか俺。物言わぬ植物でしかもたくましいの選んじゃったら意味なくないか。  俺に起きた変化といえば、サボテンに日を当てるためカーテンをきちんと開けるようになったぐらいだ。今までは昼夜逆転だったからカーテンは閉めっぱなしということもよくあった。今も昼夜逆転気味であるが、カーテンは開けてあるから、多少は朝起きられるようにはなった。しかしそれ以外は変わらぬ生活を送っていた。      
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