俺がいなくても

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 母と姉は俺が生涯独身になるのを一番心配していたから、結婚したら以前よりやいやい言ってこなくなった。  綾子はダイエットをしているさなかに妊娠したため、その後も痩せることはなかった。俺が何をせずともお腹の子はずんずん大きくなる。  そして、娘が産まれた。4000グラム超えの大きな赤ちゃんだ。強い女がまたしてもうちの家系に誕生してしまったと思った。   スーツはやっぱり苦手だな、というか似合ってないなと思いつつ袖を通す。 「行ってきます」  玄関先でそう言うと、綾子が出てきた。 「斗哉くん、お弁当忘れてるよ」 「ああ、ありがとう」  お弁当を受け取り、綾子と娘とアメとサボテンに見送られ家を出た。在宅の仕事はやめて就職し、今はサラリーマンだ。  昼休み、弁当箱を開ける。大きなおにぎりと卵焼きとアスパラベーコンとミニトマトがバランスよく詰まっていた。  綾子も元々しっかり仕事していた女だし、娘もすこぶる健康だ。俺がもしいなくなっても死にはしないだろう。父親がいなくても子供が育つことは、俺自身が女手ひとつで育っているから、よくわかっている。  俺がいなくてもみんな生きていける。だけど俺は、妻と娘と一緒に生きていきたい。そしてそのためにお金が欲しかったから就職した。妻子のためというより、自分がそうしたいからそうしている。  相変わらずアスパラとミニトマトはまずい。だけどもう残そうとは思わない。  おわり (ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。妄想コンテスト「食べる」用に書いたのですが、「その日、私は出会った」でもいいような気がしてどっちに出すか悩んでおります。よろしければご意見ください)  
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