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第8話 校外学習、最上階へ
「カラオケ大会始めまーす!トップバッターやりたい人~」
「はいはーい!俺とリョウがやりまーす!えっと、52番で!」
校外学習。
バスの車内はまるで動物園のようにざわめいていた。
わたしのバス内での隣の席はミユだけど、黙々と教科書を読んでいる。
もちろん、能力を鍛えるための教科書。
能力にも、物にかけるタイプと、人にかけるタイプがあるってことを授業で習った。
ミユは確か、「対象の悪意のある嘘を見破る」だったような。つまり後者。
悪意のある嘘。
その能力、どうやって気付いたんだろ。
でもそこまで聞く勇気が湧かなかったので、わたしは窓の外を眺めて時間を潰すことにする。
窓の外に広がっているのはわたしが今まで見ていた「普通」の世界。
確かにこの学校は「カワリモノ」が集まっている。
でも、今日の校外学習は極めて普通、のはず。
楽しまなきゃ損!だよね!
もうそろそろ電波塔にもつくころだし、降りる支度しとこう。
「メアリさん、今日も来ませんでしたね…」
ミユが突然言葉を発したので思わずびくっとしてしまった。
メアリ。
一応このクラスのメンバーだけど、学校でその姿を見かけたことがない。
つまり、不登校ってやつ。
名前からしてハーフかなんかだろうけど、見たことないからわからないし。
「うーん。わたしみたいにさ、能力かなにかしらにコンプレックスがあるのかもよ?」
でも、わたしみたいに能力に気が付かなかったってことはないだろうけど…
いつの間にか、窓の外の景色は日の丸電波塔のバス停になっていた。
バスの動きが止まると、それと反対にみんな一斉に立ち上がってもうはしゃいでいる。
バスから降りると、一般の観光客の目線が突き刺さる。
「あの制服って、あれでしょ、カワリモノの…」
あからさまにこっちを向きながらひそひそしている方が。
聞こえてますよ!そこの奥さんたち!
わたしはカワリモノ「仮」ですけどね!
「ここから班行動です。みなさん、はぐれないように…って、アキヒロ!あんたこっちの班でしょ!なんでリョウの班と行こうとしてるの!」
ミユ、さっそく苦戦。
わたしはミユみたいに仕切る人間じゃないのでそれを見ているだけ。
なんか、環境は変わっても、わたし自身は全然変われてないよな…
「おい、なに落ち込んでんの?」
わたしに声をかけたのはサツキだった。
「え、別に?」
「ならいいけど。せっかくなんだからアヤも楽しめよ。」
サツキはそう言い残すと、わたしたちを置いて先に入り口に入ってしまった。
「ち、ちょっとっサツキ!班行動だってば!」
わたしたちはアキヒロの腕を引っ張りながら入り口の少し先にあるエレベーター乗り場に向かった。
サツキが乗ったエレベーターは既に行ってしまっていたようで、わたしたちは次のエレベーターを待つしかなかった。
他校の生徒もエレベーターを待っていた。
この派手で有名な制服のおかげで、彼らは観光客と同じようにわたしたちを見る。
気にしていたらキリがない。
「ほかの班はどこ行ったの?」
「たしかリョウたちの班は1階でお土産を見てから最上階へ行くみたいですね。で、ユミの班は私たちがもめている間に3階へ。
全く、出遅れました…」
ミユはメガネをメガネ拭きで拭きながら言った。
「オレのせいじゃねぇよ、リョウがオレにちょっかいかけてきたんだよ。」
アキヒロは不満げに頬っぺたを膨らませて呟いた。
そういや、この2人って高いところ得意なのかな。
なんか怖がってるところの想像がつかない。
エレベーターも丁度来たし、この目で確かめるとしよう。
観光客とわたしたちでいっぱいになったエレベーターでは、わたしたちはエレベーター内の隅へ追いやられてしまった。
エレベーターはアナウンスを鳴らしながら上へ昇る。
「うわ…これ下ガラスになってんのかよ…」
リョウが声にもならない声でぼそぼそっと言ったあと、今にも倒れそうなほど足を震わせていた。
怖いんだ…
あんなに楽しんでやるぜ!的な雰囲気出してたのに。
後ろを振り返ると、ミユが上を向きながら
「怖くない…怖くない…」
と自分に暗示をかけているのを見てしまった。
確かに高いけど、そんなに怖いかなぁ?
エレベーターは乗っていてもわかるほどに速く昇り、あっという間に最上階に着いてしまった。
「あんた!勝手に先行くな!」
エレベーターから降りると、彼は窓の外を眺めていた。
「ミユ、超びびってたんだかんな、なんせエレベーターから外が見えるもんだからよ!」
アキヒロは膝も一緒に笑わせながらミユを見た。
どっちも怖がってたよ…
「お前らがおせぇんだもん。」
サツキは口調はバッサリだったけど、顔は笑っていた。
わたしはとりあえず合流できたことにほっとした。
「でもお前らさぁ、これまじ綺麗じゃね?景色やべーよ。あ!お前ら怖いんだったか。」
サツキが鼻で笑うと、ミユは舌打ちを返し、校外学習のしおりにメモを取り始める。
リョウはなるべく壁際に身を寄せて上を向きながら歩いていた。
下を向いたらガラスがある。
ビルがミニチュアに見えるほど高く、晴れていたおかげで澄んで見える青空は壮大で、もっと早く来てればよかったと後悔。
「あ!アヤじゃん!ひさしぶり。」
突然聞き覚えのある声がした。
その正体は、わたしが一般人だった時のクラスメートだった。
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