交わした約束

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「山吹美来です。よろしくお願いします。同級生なのに、もう夢をもっているなんて篠田くんはすごいですね」 「いや、そんなことないよ。僕の家には建築物の写真や本が沢山あるから、興味を持っただけなんだ。美来ちゃんの夢は何?」  夢?そんなの今まで考えたことも無かったと、美来はなんと答えていいか困ってしまった。どうしよう、無いって答えれば、せっかくできた友達の渚紗が、私をつまらない子だと思うかもしれない。夢…夢のイメージから考えると…… 「えっと。おばあちゃんが言ったんですけれど、食べることが好きな子は美味しい料理が作れるようになって、幸せな家庭を持てるって……今はそれかなって思います」  美来の話を聞いて、理久がおおっと歓声とを上げている。どうしたのかと不思議に思って首を傾げると、理久が目をキラキラさせながらむんずと美来の腕を掴んだ 「美来ちゃん、嬉しいよ。俺の夢も将来的には有名なシェフになることなんだけれど、中学生になったらやってみたいことがあるんだ。渚紗も幸樹も一緒にやるから、仲間に入らないか?」  渚紗も幸樹も、美来の手を取って上下に振りながら、一緒にやろうとねだってくる。いつも弟の面倒を優先していた美来は、放課後に遊ぶ友人もいなかったので、こんな風に誘ってもらうのが本当に嬉しくて、内容も聞かずに頷いた。 「みんなと一緒なら楽しそう。それで何をするの?」  渚紗と幸樹の顔が理久に向けられ、説明を促すと、理久はコホンとわざとらしく咳をしてから、洋風総菜(サイドメニュー)のテイクアウト店と答えた。 「ほら、M県の高校生が部活でレストランをやって話題になったろ?俺たちはもっと独創的なサイドメニューを作りたいと思ってる。俺がレシピと料理、幸樹がフードデザイン、渚紗と美来ちゃんにクッキングの補助をしてもらいたいんだ。最初は店なんて持つのは無理だろうから、俺の親のレストランの片隅に食品陳列ケースを置いてもらって、お客の反応をみるつもりだ」 「面白そう!やりたい!私も色々なお料理を覚えたいから、理久くん教えてくれる?」 「おうよ!」  任せとけと言った理久の態度だけは大きいいものの、顔が真っ赤になっているのを見て、渚紗と幸樹が冷やかしながら笑い転げている。  美来と同級生の男の子たちの出会いを、目を細めて見ていた沙和子は、まだ身体も小さい小学生が一端に夢を語る姿に、最近の子供たちはませているとも、頼もしいとも感じると共に、つらい思いをしてきた美来に、友人たちと新しい夢ができたのを心から嬉しく思った。
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