家族の風景

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 美来がここに来てまず感じたのは、都会と地方の子どもの違いだった。  都会の子供は、大人が作る目まぐるしいほどの時間の流れの中で、何事も早く習得することを要求されるせいか、言葉の語彙も多いし、大人のように長いセンテンスをやり取りできる子が多い気がする。  それに対し、地方の子は、その地域が作りだす雰囲気に育まれて、リズムも感覚も違うような気がする。美来がこちらの同年代の子たちと話すときは、自分が手にすることができなかった純粋さや、子供らしさを発見して、面映(おもは)ゆい気持ちにさせられる。  もちろん中には例外があり、そのうちの三人を美来はよくしっている。  海外のレストランでの修行後、都会の人たちを相手に料理を提供する父親と、それをしっかりサポートする母親の間で育てられた理久。そして、幸樹の親も、大きな建設会社を経営していて、広い取引があることから、会話のやり取りや考え方が都会的で、それが幸樹にも影響している。  つまり、理久と幸樹は、商売を生業とする親を手本に育っているので、言動が大人の男のようでませている。そして、その二人に長いこと付き合ってきた渚紗も大いに影響を受けていて、阿吽の呼吸で受け答えをする。だから、美来が少々ひねくれた態度を取っても、この三人には、クレームをつける客よりもうんとかわいい存在に映り、いとも簡単に受け流してしまう。美来にとっては付き合うのが非常に楽な相手と言えた。 「ねぇ、そういえばクラブの名前はなんていうの?」  美来の質問に三人が顔を見合わせ、実はまだ決めていないと口ごもる。 「ホームページを作るなら名前が必要でしょ?」 「そうだけどさ。俺と幸樹じゃ、うまい、安い、早いってワードしか思い浮かばないわけよ」 「それって、どっかのチェーン店のコピーじゃなかったっけ?」 「男の子は食欲旺盛だから、ロマンチックなネーミングを考えるのは無理よ。私も考えたんだけれど、サイドメニューのお店にはちょっと大げさだって言われて、ボツになったの」 「どんな名前?聞きたい」  美来が渚紗の案を聞こうとすると、幸樹がやめといた方がいいと首を振るので、余計に興味が湧いた。美来が渚紗の手を取って、ねぇ、教えてとしつこく繰り返しすと、渚紗もついに折れて、聞きなれないフランス名を口にする。 「Planète(プラネット) Accompagnement(アコンパニュモォ)。色々考えているうちにどんどんイメージが膨れ上がっちゃって……」 「それ、どういう意味?」 「総菜の惑星っていう意味。ねぇ、美来は、キッシュとかテリーヌとか、おいしいものでできた惑星って素敵だと思わない?」 「……。確かに壮大なネーミングね。私なら立ち寄りたくないけれど」
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