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「おじさん。僕にも半分分けてもらえますか」
「ん?幸樹君は……クレームブリュレが好きなのかい?」
もう少しで、幸樹君は美来ちゃんが好きなのかいと聞きそうになった昌喜は、渚紗が幸樹に片思いをしていると、理久が話していたのを思い出し、すんでのところで名前をスイーツに変えた。
恋愛ごとで仲間同士が揉めれば、クラブを立ち上げるどころではなくなるだろうと危ぶみながら、渚紗の顔をちらりと見ると、案の定暗い顔で俯いてしまっている。これはまずいのではと思った時に、美来がガリガリと音を立てながら、キャラメルをスプーンで崩した。
「いくら幸樹が、プリン好きだからって言っても、調理実習に続いて今回も横取りはさせないわよ。おじさんは私に当てろって言ったんだから。おとなしく違うデザートを食べてよね」
渚紗のしょんぼりした顔が目に入った美来は、暗に引っ込んでなさいと幸樹に告げると、中身をすくったスプーンを口元に持っていく。その途端、嗅ぎ覚えのある香りが鼻孔をくすぐった。
この香りは知っている。いつだったか……そう、ここに来た時に、祖母と渚紗と一緒に摘みに行って、理久と幸樹に出会ったんだ。四人を結び合わせたもの、それは、
「よもぎね?」
「当たりだ!すごいね。ほんの少しだけ入れただけだから、分からないだろうと思ったのに、食べないうちから香りで当ててしまったか……。それじゃあ、優秀なパティシエ見習いさんに教えておこう。プリンとクレームブリュレは入っているものがミルクとクリームの違いがあるし、調理方法も蒸すのと焼くので違うからね」
「そうなんですね。勉強になりました」
「あと、よもぎの花言葉を知っているかい?」
昌喜が四人の顔を見て聞くと、みんなは首を振った。
「幸福。平和。決して離れない。君たちが幸せでいてくれて、ずっと仲良く離れないでいてくれたら、Des Canaillesを教えていくことになる私は嬉しいだろうね」
昌喜の言葉はそれぞれの胸に深く届き、四人は静かに頷いたのだった。
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