家族の風景

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「大きくなって。見違えちゃったわ。きれいになったのね」 「……」 「美来。ごめんね。話したくないかもしれないけれど、お母さん本当に悪かったと思っているから、許してほしいの。ごめんね」  母親の手が伸びてくるのを、反射で避けようとしたけれど、康太が抱き着いているので避けることができず、腕を掴まれた。そのまま、さすられているうちに、緊張が解けていく。 「こっちで一緒に座りましょう。この一年であったことを話してほしいの」  いつも美来を無視していた母親が、美来の話を聞きたいと言ったので、意外に思って康太の頭から視線を上げると、さっきよりは自然にほほ笑む顔が見える。手を引っ張られるままに恐る恐る母親の隣に腰かけて、自分からと言うよりは、質問されたことに対して、ポツリポツリと答えていると、沙和子がお茶を運んできて、美来と母親の様子を窺った。  父も美来がいなくなって寂しい思いをしていることや、母親がどんなに後悔しているかを沙和子にも聞かせるように話しだし、康太までがお姉ちゃん帰ってきてと膝に載って甘えてきた。  自分は家族に必要とされているのだろうか?昨日ここに留まると理久たちに言ったのに、もう気持ちがぐらついてきている。美来の腕や背中を露骨に撫でまわす母親の手をわざとらしくも感じたが、慣れていないスキンシップのせいだと思い込もうとする。  沙和子も交えて大人たちの差し障りの無い会話が進むと、だんだん康太が飽きてきて、美来の手を引っ張って庭に行きたいと言い出した。  自分も緊張していたせいか、かなり気疲れを感じたので、玄関から建物の東を回って南の庭に出ようとした。すると、二m間隔で植えられたコニファーの垣根の間から隣の畑で動く人影が見える。垣根に近づいて覗いてみると、渚紗と理久と幸樹が手を振ってきたので、美来は唖然としてしまった。 「三人共、畑の中で何してるの?」 「何してるって……えっと、探偵ごっこ?」  渚紗がしどろもどろに答えると、康太が僕もやりたいと言って、美来の手からすり抜け、元々形ばかりに作られた、間が空いている木に竹の横棒を二本渡しただけの垣根をくぐって、向こう側に行ってしまった。 「あっ康太!待って」  美来も仕方なく身を小さく折りたたんで、竹の横木をくぐって畑に足を着くと、渚紗が手を伸ばして、美来が背を起こすまで支えてくれる。 「探偵って何?ひょっとして心配して見に来てくれたの?」 「そう。お母さんとどうだった?」 「それがね。気持ち悪いくらい愛想がいいの。悪かったって謝ってくるし……」 「おいっ、美来。もしかしてほだされたんじゃないよな?俺たちと昨日約束したろ?」  理久に話しかけられて視線をむけると、その後ろで康太が作物を植えた畑の畝の中に入っていくのが見え、美来があっと声を上げた。  理久と幸樹は畑の畝の間を歩いて、作物に触れないように注意をしているが、何もわからない康太はすでに畝の上をお山だと言って踏みつけている。 「どうしよう。畑を荒らすとおばあちゃんに怒られる」  オロオロする渚紗を助けるために、幸樹が、畑の畝の上に片足で立ってもう片方で山を蹴り崩している康太に近づいていった。 「康太くんだっけ?その小山は踏むと大きなムカデやありが出てきて噛みつくから危ないよ」  幸樹の脅しは効果てきめんで、康太はうわっと叫んで畝から飛び降りると、怖い怖いと足踏みをしてぐずりだした。幸樹がおいでと康太の手を握って、美来たちのいる方へ連れてくると、幸樹の手を振り払って、康太が美来の腕に飛び込んでくる。
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