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「お姉ちゃん。こんなところ嫌だよ。おうちに帰ろう」
「お姉ちゃんの家は、今はここなのよ」
「お姉ちゃんがここにいるから、僕もお母さんもみんなから変なこと言われるんだよ。帰ってよ」
「なっ。何言って……」
康太の頭を撫でていた美来の手が、凍り付いたようにぴたりと止まった。
私を傷つけて、そこにいられなくしたのはあの人たちなのに、世間から非難を浴びて、自分たちが痛めつけられるのは嫌なわけだ。だったら、さっきあの人が言った言葉な何のだろう?
『美来。ごめんね。話したくないかもしれないけれど、お母さん本当に悪かったと思っているから、許してほしいの。ごめんね』
全部嘘⁉ 横に座らせて、私の話が聞きたいと言ったのも、私がいなくなって寂しいから、帰ってきて欲しいと言ったのも、全部自分たちが世間の非難から逃れるためについた嘘⁉
少しは家族に必要とされているんじゃないかと思ったのは大間違いで、私はもう少しで騙されるところだったんだ‼
美来が急に石のように動かなくなり、前方を睨みつけながら、じっと物思いにふける様子を心配した理久が、美来の肩に手を置いて顔を覗きこもうとすると、美来が体を捩ってその手を払う。それでも理久は引っ込むことができなくて、今度は高い位置から康太を見下ろしたまま、冷たい声で訊いた。
「お前さ、お母さんが美来をぶつのを見ていたんだよな?自分たちが悪いとも思わずに、全部美来のせいにするわけ?」
「だって、お姉ちゃんがお母さんの言うことを聞かないから、ぶたれてもしょうがないって、お母さんが言ったんだもん」
美来は抱き着いていた康太の手を引き離し、首を振って一歩後退った。今まで感じてい弟への愛情が憎悪へと変化して、触れられるのが耐えられなくなったのだ。
大人は全員自分の味方だと思っていた康太は、知らない土地で、大きな大人に見える理久に詰られて心細くなり、美来に縋ろうとして手を伸ばしたが、渚紗がその間に割って入った。
「じゃあ、畑を荒らしたあなたをぶっても許されるわけね?あなたのお母さんみたいに子供でも平気で殴るのが正しいんでしょ?」
それまで甘ったれた態度を取っていた康太が、むっと口を尖らせて、お前なんか嫌いだと言った。突然態度を変えた康太を見て、美来も他のメンバーも驚いたが、多分これが康太の本当の顔なのだと分かって、言わせるままにする。
「こんな嫌なところ早く売っちゃえばいいんだ。なのに、お姉ちゃんがいるから売れないんだ」
「売る?おばあちゃんの土地を勝手に売れるわけないじゃない」
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