家族の風景

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 何か勘違いしているのではないかと思った美来が口をはさむと、康太は母親が言ったのであろう言葉を、いかにも自分が思っていることのように威張って言った。 「この土地はお父さんがもうらう土地なんだ。なのにお姉ちゃんがわがまま言ってここにいるから、おばあちゃんは半分お姉ちゃんにあげるかもしれない。そしたら売れなくて、僕たちのお家が作れないんだよ」  言われたことを理解したくなくて、美来の頭が考えるのを拒否してしまったように真っ白になる。それでも、徐々に言葉が意味を成して、両親は虐待を反省していないどころか、自分たちの保身のためと物欲を満たすために、美来を連れて帰ろうとしていることが分かった。沸々と心の底から沸き上がった怒りが、どす黒い憎しみへと姿を変える。 「あいつら、絶対に許さない!私は絶対にここを動かないから。康太は、とっとと帰りな。二度と来るなってあいつら言っておいて!」  姉の怒りを理解できず、康太がヤダ!と大声で叫ぶ。 「お姉ちゃんが帰らないと、僕たちが嫌な目にあうんだ。お姉ちゃんはそれでもいいわけ?」 「帰れ!康太の顔なんて二度と見たくない!帰れよ!」  美来が弟につかみかかろうとするのを、理久が後ろから止めた。 「やめろ美来。お前が手を出したら、何を言われるか分からないんだぞ」  理久の制止に関わらず、一度煮え滾った憎悪は、僅かに残った理性を簡単に食い破り、美来は羽交い絞めにしている理久から逃れようとして、拳を振り回しながら暴れた。 「放して!放してよ!こんな奴、弟なんかじゃない!私がやられたみたいに、こいつを殴らせて!」  姉の剣幕に驚いた康太は、畑の中へと走って逃げだした。渚紗が後を追ったが、康太は捕まったら殴られるかもしれないと思って、泣きわめきながら逃げていく。  心の荒れ狂うまま暴れる美来に対し、美来を傷つけまいと手加減する理久の腕はすでに緩みかけている。そのすきを狙って、美来が理久の足を蹴飛ばして腕の包囲から抜けた。  だが前方には幸樹が待っていて、振り上げられた美来の手首を掴んで、上から圧力をかけ、地面へと膝をつかせて足を封じた。そして美来を落ち着かせようと、何度も名前を呼ぶ。地面に膝をついたまま、両肘を振って幸樹の手から自分の手を抜いた美来の傍に、理久がしゃがみ込んで、美来の両肩に手を置き、労わるように撫でながら話しかけた。 「美来。頼むから正気に戻ってくれ。あんな奴放っておけ。美来が望むなら俺たちが美来の家族になる」 「そうだぞ美来。僕たちが守ってやるから、ここにいろ」  理久と幸樹が、美来を真剣に思いやってかけた言葉は、美来に届いたようで、美来の抵抗が弱まったのを見て二人がホッとした時、畑の方の騒ぎを聞きつけて、沙和子の家の庭から母親が顔を覗かせた。 「あなたたち何をしているの?美来から手を放しなさい!それと、康太はどこ?」
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