家族の風景

18/19
89人が本棚に入れています
本棚に追加
/113ページ
「汚いから降りなさい!」  母親の怒鳴り声に康太はパニックを起こし、余計に離れまいとしがみついている。数メートル先の井戸水をくみ上げる水栓から、バケツに水を汲んだ渚紗が戻ってきて、美来にバケツを渡した。 「きれいにしてあげたら?」 「私がするの?」 「そう。ザバッっと潔く」  意味を介した美来がバケツを受け取って、正面から二人に向かって水をぶちまけた。母親と康太が悲鳴を上げたが、後方には新たな水をバケツに汲んできた理久と幸樹が立っていた。  次々に美来にバケツが手渡され、最初は怒りを込めて、次は別れの気持ちを込めて、かつて母親と弟だった二人に、美来は水をぶちまけた。 「この土地は売らせないからね!康太から聞いたわ。私がここにいると土地がお父さんのものにならないから、私を連れ戻そうとしたんでしょ?それと、私を虐待した噂をもみ消すために、仲のいいふりをするつもりだったんだわ。あんた達最低!大嫌い!二度と会いたくない」  沙和子は、美来の頬を伝わる涙を指で拭うと、水浸しで黙り込んでしまった親子に告げた。 「あなたは母親としても、人間としても失格です。美来は私の子供にして、この土地は美来に渡しますから、そのつもりで……。家の敷居も二度と跨がせる気はありませんから、そのまま帰ってください」  沙和子は、いつのまにか傍に来ていた息子を鋭く睨むと、康太が言ったことが本当で、それを知っいて加担したのなら、もう金輪際、息子だとは思わないから、縁を切るつもりだと怒りの口調で問い詰める。知らなかったと必死で言い訳をする息子に向かって、沙和子は情けないと呟くと、二人を連れて帰るように命令をした。  沙和子たちが畑から引き揚げる姿を、期待を打ち砕かれ、怒りを爆発させて力尽きた美来が、ぼーっとしながら見送った。  ふと、振り返ると、仲間たちが沈痛な表情を浮かべている。美来が仲間に心配をかけまいとして無理やり笑おうとした時、渚紗が素っ頓狂な叫び声を上げた。 「ねぇ、みんな畑を見てよ。あんなに踏み荒らされて、マジやばいよ!おばあちゃんに大目玉を食らっちゃう。ひょっとしたら、私の方が水瓶の刑になっちゃうかも。そしたら、みんな助けてくれる?」  雰囲気を明るくしてくれようとする渚紗の気持ちが嬉しくて、美来がもちろんと言うと、幸樹も頷いたが、続いた理久の言葉にみんなが避難の目を向けた。 「俺はいやだね。だって汚いもん」 「お前な~。こういう時は合わせておけよ」 「美来だったら、助けてやる。だって俺の一番大切な家族だもんな」  一人だけその話を聞いていなかった渚紗が、幸樹から経緯を聞いて、私も美来の家族になると言った。
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!