家族の風景

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家族の風景

 調理実習で理久が率いるグループが作ったアレンジ料理の話は、瞬く間に他のクラスにも伝わり、理久は一学年で一躍注目の的となった。  美来や渚紗もアレンジ料理のレシピの原稿を練り、実際に作ったときに気を付けた点や工夫を書き入れ、横にかわいいイラストを入れて作成すると、放課後に理久と幸樹を伴って家庭科の白井先生に見せに行った。  白井はふっくらとした三〇代の女性で、幼稚園に通う息子が一人いるという。理久が作ったピカタを家で試しに作ったら、息子が喜んで食べたと嬉しそうに話してくれた。  すかさず理久が、以前から申請していた新しい部の人数が集まりそうだから、白井に顧問をやってもらえないだろうかと話をもっていくと、白井はすでに教務から打診があったと答えた。それで?と期待を込めた目で身を前に乗り出した四人に、白井が受けてもいいと承諾したので、理久と幸樹がうぉ~っと雄たけびを上げ、その横で美来と渚紗もやった~っと手を叩いて喜んだ。 「せっかくだからホームページを作らないか?」  幸樹の案にみんなが賛成したので、白井から調理実習の時に撮った写真を、幸樹のパソコンに転送してもらう約束を取り付けて、四人は理久に誘われるままChez(シェ) Naruseに行くことになった。 「今日は定休日だけれど、地元の人たちへのサービスデイで、パーティーを請け負っているんだ」 「ああ、月一回の地域優先の貸し切りパーティープランか。僕の両親も、取引先の家族を招いて、Chez Naruseでもてなしたことがあるんだよ。すごく喜ばれたみたいだ」 「ほんとか?それ、直接父に言ってやってくれ。喜ぶと思う。あのプランは母が考えたんだ。普通の日だと、他所からくる有名人とか、セレブの予約で一杯だから、月一回だけは、この地域に住んでいる人たちに、手頃な値段で楽しんでもらう日にしようってね」  二人の会話を聞いて、渚紗が相槌を打ち、美来は知り合う前の事情を知った。 「理久と幸樹のお父さんたちはこの町じゃ有名だから、お母さんたちのこともみんなが知っていて、幼稚園や小学校では役員をやらされていたものね。地元の人を無視できないから、おばさんは頑張って考えたのよ」  美来がこの町に来たのは、小学校六年生に上がる前の春休みだったので、それより以前の三人の話を聞くと、硬い絆で結ばれた絆で通せんぼされたような気分になり、疎外感を感じてしまう。  でも、住んでいるうちに、田舎の生活というのはゆったりと流れ、子供がどんどん成長しても、周囲の習慣や人間関係はあまり変わっていないことを知り、すぐに話題についていけることが分かって、ホッとすることが多い。
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