エンディングロール  友広(22)の場合

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エンディングロール  友広(22)の場合

 女優の微笑みをアップで映した後、映像はふっと消え、画面は暗転した。  穏やかなラストシーンの余韻をそのままに、白い横書きの文字が画面を下から上へと流れ始める。しっとりとしたイントロのバラードに乗せて、主演を務めた俳優から順に、映画に携わったキャスト、及びスタッフたちの名前が羅列されていく。  映画が始まってからここまで、ざっと一二八分。ずっと同じ態勢をキープしていた友広(ともひろ)は、文字の流れを目で追いながら、天井へと大きく腕を伸ばした。肩の関節から軽い音が鳴る。ついでに少し上体を反らせて背筋を伸ばすと、凝り固まっていた上半身が少し解れた。  エンディングロールを眺めながら考える。今年の個人的な満足度ランキングトップ五に入るほどではないが、今回のこの映画はなかなか楽しめるものだった。  羽田からシドニーへと旅立つ旅客機の中で、突如起こった毒殺未遂。被害者の容態を最優先するため、緊急着陸を余儀なくされた飛行機はベトナムの空港へと向かう。犯人の狙いやその正体が一切分からず、乗客と搭乗員たちの不安や動揺が募る中、旅客機に乗り合わせていた一人の自称名探偵が犯人特定に名乗りを上げる、という密室サスペンスだ。  物語のかなり序盤から毒殺未遂が起こるインパクトは十分であったし、探偵を演じる俳優の胡散臭さは若手ながらなかなか様になってた。しかし特に夢中になったのは、ベトナムの空港に降り立ってからの怒涛の展開だ。予告編でも公式サイトでも一切匂わせが無かった、新たな事件の勃発がもう一段階仕組まれており、それに翻弄される人々を映画ならではのスケール感で描き切ったのは称賛に値するレベルだった。スピード感を失わず、なおかつ丁寧で無駄なく構成された脚本も素晴らしく、世界観に難なく引き込まれた。
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