【重要】《不具合のお知らせ》:旅立ちの村の井戸の前で4748回ヘッドスライディングした後、3時間2分16秒間、西方向を向いていると、魔王が弱体化した状態で、井戸にハマった状態で出現するようです。

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ズコォオオオオ!!!・・・・ ズコォオオオオ!!!・・・ ズコォオオオ!!!・・ とある小さな平凡な村。村には何かが地面を削る音だけが淡々と響き渡っていた。 村の入り口には、旅立ちの村と書かれた立札が刺さっている。 ここは魔王城から一番離れた地点にある村で、世界で一番平和な村である。 村人達は地面が削れるような、正体不明な音が気になり、皆、村の外へと集まっていた。 「87・・・」 ズコォオオオオ!!! 「88・・・」 ズコォオオオオ!!! 「89・・・」 ズコォオオオ!!! 村人達は音の正体を知った時は驚いた。 頭のおかしい人が、村の中に現れたのかと思ったのだ。 そして、その問題となる人物の奇行を見て思った。 人間的に大丈夫なのだろうか。 何かの病気ではないだろうか。 いや、それとも、何かのカルト宗教の儀式なのか。 村人達は、ただただその人物を心配そうに見ていたのである。 そしてとうとう1人の青年が、問題となっている、その人物に声をかけた。 「……あのー。頭から血が出ていますけど、大丈夫ですか?」 声を掛けられた女性は、転んでいる状態から起き上がると、半分程、泥まみれになった腰まで届く長い白銀の髪を揺らし、青年の方を向いて答えた。 「大丈夫だ、問題ない。諸君、君達は私に構わず、いつものように、この村のNPCとしての努めを果たしてくれたまえ」 そして今度は幼い少女が、女性を指差して母親に言った。 「ねえ、お母さん!。あの人、さっきからずっと、同じ場所で転んでいるけど、どうしたの〜?」 女性の奇行は、純粋な子供の好奇心を駆り立てたのであろう。 それを悟った少女の母親は、少し焦った表情で、娘の両目を両手で隠し、言った。 「見ちゃダメよ」 問題の女性は、そんなドン引き中の母親の行動にも気にせず、少女の好奇心から生まれたその質問に、平然とした態度で答えた。 「何をしているか、だと?。見ての通りだ。井戸の前でヘッドスライディングをして、ヘッドスライディングした数を数えている」 女性は、村人達の視線を気にもせず、ごく自然な素振りで少女にそう答える。 それはまるで、自分は何一つ変わった事はしていない、いつものよくあることだと言わんばかりに。 「ではそういう事で。私は忙しいのだ、邪魔をしないでくれ、諸君」 彼女はそう言うと、ヘッドスライディングを再開する。 「90・・・」 ズコォオオオ!!! 「91・・・」 ズコォオオオ!!! 「92・・・」 ズコォオオオ!!! まさかの返答に村人達はおどおどして、青年の1人が彼女を問い詰めた。 「いやいやいや!(汗)、おかしいじゃないですか!?。何かに躓いている訳でもないのに、自分の意思で黙々とヘッドスライディングをするなんて、頭大丈夫ですか?、マゾって奴ですか?、変態ですか?」 それを聞いた私は、舌打ちをして、再び転んだ状態から起き上がると、やれやれと言わんばかりに、首を左右に振り、答えた。 「割と有名なバグだぞ?、まさか青年、知らないのか?。全く、これだからNPCは。 私はな………。 今から!魔王召喚バグを実行するのだ!。 この井戸の手前で4748回ヘッドスライディングした後、西方向を3時間2分16秒間向き続ける事で、お前達を苦しめて来た、あの魔王をハメ殺せるのだ」 がしかし、村人達には目の前で黙々と転び続けているだけの変態が、魔王を倒せるなどとは到底思えなかった。 村人達からの視線は、明らかに痛い人を見た時のものを感じる。 (ちっ………。皆で私を馬鹿にしやがって。今に見てるがいい) まあ、NPCにバグだのグリッチだの裏技だの言っても理解出来る奴はそうそういないか・・・。 私は溜息をして何事もなかったかのように、ヘッドスライディングを再開する。 「93・・・」 ズコォオオオ!!! 「94・・・」 ズコォオオオ!!! 「95・・・」 ズコォオオオ!!! そしてとうとう青年は衛兵を呼ぶ。青年は早朝から、この不愉快な音を聞き続けているため、内心我慢の限界だったのであろう。 「衛兵さーーーん!、こっちです!。ここに頭のおかしい人がいます!」 すると、村の入口を警備していた2名の衛兵が、通報を聞きつけて村の中心にある、井戸の場所まで走って来た。 「ぬぬ!。頭のおかしい人間がいると通報があったが!犯人は貴様か!」 衛兵はそう言うと、装備していたロングスピアをヘッドスライディング中の私に向ける。 「118・・・」 ズコォオオオ!!! そこで私は、転んだ状態のまま顔だけを衛兵に向けた。 (はぁ・・・村の手配度が上がったか。青年め、余計な事をしてくれたものだ) 私は衛兵が駆けつけたからといって、動揺する必要はないという事を知っている。 こいつらは所詮、人間の知能には到底及ばないNPCでしかない。 ここは私のよく知るゲームの世界だ。 そのため、NPCが私にどんな危害を加えようと知った事ではない。やられたらやり返してやればいいだけの問題だ。 118回目のヘッドスライディングを完了させた私は、ゆっくりと起き上がる。 私の額からはすでに深い切り傷が出来ており、血が一滴、顔を伝って首まで流れ落ちた。 ここで突然だが、私の自己紹介をしよう。 私の名前はアサヒ。この度とあるゲームの世界に閉じ込められた者だ。 この世界に来たのは昨日の夜の事。 ゲームの世界に閉じ込められる前、私は日本のゲーム会社で働いていたのだ。 仕事は主にゲームのデバッグ。つまりゲームの中の不具合やバグを見つけて、開発チームに報告する事が私の主な仕事だ。 私が担当していたゲームのタイトルは「アリス・オンライン」というMMORPGだ。このゲームは、世界で一番開発費がかけられたゲームという事で、かなり期待されていた。開発年数も、ゲームの仕様が決まって10年も経つ。 発売日は何度も何度も先延ばしに変更され、一生発売されない開発中のゲームTOP1としてディスられた時期もある。 開発期間が伸びた原因は、ゲームの中に無数に存在する「バグ」だ。 このゲームはMMORPGの枠を超える程、遊べる機能が多すぎて、色々な場面で想定外のバグが発生するのだ。 そして全てのバグの修正がスケジュールのギリギリでなんとか完了し。 私は深夜の2時半過ぎ、まるで力尽きたように、ぐっすりと会社のオフィスで眠った。 ・・・そして次の日、何故か私は、アリス・オンラインのゲームの中に居た。 というか…。 誰かそろそろ、私の顔に付着している血を拭き取って欲しいのだが。
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