【重要】《不具合のお知らせ》:旅立ちの村の井戸の前で4748回ヘッドスライディングした後、3時間2分16秒間、西方向を向いていると、魔王が弱体化した状態で、井戸にハマった状態で出現するようです。

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私は、アリス・オンラインの中に居ると理解すると、慌てふためいた。 私の目に映し出された世界は、ディスプレイから表示された映像などではない。 自分の目に直接映し出されていたのだ。この投入感はVR(バーチャル・リアリティ)などで体感出来るレベルを遥かに超えている。 実際にゲームの中に居る。まさにそんな夢のようなシチュエーションに私は感動した。 仕事で相当疲れていた事もあったのだろう。これは日々のデバッグ作業(バグ取り)のストレスが生み出した夢に違いない。 夢の世界がアリス・オンラインとはな…。 仕事中はずっとゲーム画面を見ているからな。 それに、スケジュールまでにデバッグが終わらない不安もあったから、こんな夢を見ているのかもしれん。 しかし、それはそれでこの夢がどこまで正確にアリス・オンラインが再現されているか、私はとても興味があった。 私は自分の脳内で仮想コントローラーを操作してみる。 今の時代で物理的なコントローラでゲームをプレイするってのは、一部のゲームマニアにしか需要がない。 人類は脳内のメカニズムを、ある程度解明する事に成功した。 そして脳内の信号だけで、どのようなゲームの複雑な操作も可能となった。 私は自分のステータスを開いた。 視界にはしっかりとステータスウィンドウが表示されている。 これはすごい。夢にしては本物すぎて感心する程だ。 私が見つけたバグはしっかり修正されているだろうか。 やはり、これが私の本業(デバッガー)でもあるためか。 たかが夢の作り出した空想の世界だろうと、私の本能が、その事を気にして気にして仕方がない。 私は旅立ちの村にある武器屋の家の外壁付近にある椅子を見た。 この椅子にはバグがあった。 この椅子のバグは私が発見し、開発チームにも共有したため、当然今は修正されているはずだ。 そのバグとは、この椅子に座った後アバターエモートの「応援する」を38回実行した後に、アバターエモートの「寝転ぶ」を実行すると、通常の椅子は、座った状態で「寝転ぶ」事は不可能なはずなのだが、この武器屋の椅子では、それが出来てしまう。 アバターエモートとは、キャラクターに任意のアニメーションを実行させるための機能だ。エモートの種類はたくさんあり、例えば今私が踊るエモートを実行した場合、キャラが応援し始めるのだ。 709eb2df-8ce0-4fcc-b2bd-4212ef828359 ゲームがバグると、どんな事になるだろうか?。実際に経験した事のある人なら想像しやすいかもしれない。 そこで椅子バグを使った場合、どのような事が起こるか説明しようと思う。 まず椅子の上で寝転んだ場合、ゲームシステムの想定外の挙動が発生したため、自分の身体が寝転んだまま、突然空中にふわっと浮かび上がる。 そして、バグった場所に自分が移動してしまったため、武器屋の外壁に肉体がグニュリと音を立てて半分程めり込み、そのまま上までビクンビクンと痙攣しながら上昇して行き、武器屋の屋根までに達したものならば、身体がグニュリと貫通し、屋根の上に着地出来てしまうのだ。 もしオンラインゲーム上で他のゲームプレイヤーが、こんなバグった現象を目撃したものなら興醒めだろう。 そんなバグったプレイヤーは、即ゲームの運営チームに通報である。 そんなキモいプレイヤーは、ゲームの雰囲気をぶち壊すだけだからな。 何故こんな事が起こるのか、ゲームプログラム開発チームの同僚であるヒカリに聞いた事がある。 彼女はアリス・オンライン開発チームのメインプログラマーだ。 バグの大抵はゲームプログラムのミスから発生する。 彼女が言うには、アバターエモートの「応援」には、キャラクターが応援の動作をする時、激しい動きが生じるため、応援前と応援後のキャラクターの位置が、ほんの数ミリ違ってしまうと言うのだ。 つまり、キャラクターの強制移動が可能となってしまうため、通常侵入出来ない場所にまで移動出来てしまう。 自分のキャラクターが、壁や床や天井に身体が半分めり込み、ビクンビクンと挙動不審に痙攣し始め、キモすぎて興醒めしてしまうのは、そういった事情があるからだ。 そして特定の椅子に座ったまま、このエモートを何度も実行してしまうと、椅子に座った状態でキャラクターが一定方向にズレて動いてしまい、キャラクターが上方向へと、徐々に強制移動してしまうのだ。 そして38回「応援する」を行うと、最終的に武器屋の屋根と壁に、身体がめり込んでしまい、キャラクターは身動き不能となる。 が、この状態でアバターエモート「寝転ぶ」を実行すると、「寝転ぶ」には地面への自動着地機能があるため、寝転んだキャラクターの位置から1番近い着地可能な場所である屋根の上へと着地する。 屋根の上は普通は徒歩の状態で行く事が出来ず、自由に歩き回れる想定で作られているわけではない。 つまり、バグを使って普段は行けないようなバグってる場所に移動する事が可能なのだ。 オンラインゲームをプレイしていて、こんな経験をした事はないだろうか?。 ゲームの仕様上、侵入出来るはずのない場所に他のプレイヤーが何故か居て、自分よりも高い位置から、こちらに向かって手を振っているとしよう。 そう、彼等はバグを使って自慢しているのだ。 彼等の場所へ行くには、こちらもバグを使って登れるはずもない壁を登ったりしなければならない。 しまいにはチャットで「こっちまで来て見ろよー(笑)」などと言われて煽られた場合、挑発は無視して、一度冷静になって考えてみてくれたまえ。 ………そんな奴は即通報だ!。 そして武器屋のバグだが、実はまだ続きがある。 バグった場所である屋根の上に無事到着したならば、コマンド「はなしかける」を実行すると、居ないはずの武器屋の店員と会話が始まり、武器の取引が開始される。 これもバグである。 このようにバグから別のバグを発生させる事も出来る場合がある。 バグが立て続けに発生する事により、どんどんゲームの世界がバグりやすくなる。 私はこの事を連鎖バグと呼んでいる。 (現在は2連鎖バグ しかもこの状態で武器の取引が開始されると、何故か商品が全て0ゴールド(無料)で購入出来てしまう。 このバグも立て続けに発生したバグが原因で想定外の事態が、さらに想定外の事態へと発展させてしまった結果発生したバグである。 (現在は3連鎖バグ 無料で購入出来るため不正行為もやりたい放題だ。 このようにバグの乱用や悪用で、ゲームシステムの抜け道を悪用し、不正なやり方でゲームを進めるユーザーは以外に多い。 もうこうなれば、無敵、不死、俺Tueeee、なんでもありだ。 ネタにされるだけで済むバグもあるが、課金アイテムを無料で大量に買えてしまうバグや、俺Tueeeeして周辺のプレイヤーを皆殺しにしてしまうバグがあるのは冗談抜きで色々とまずい。 私も様々なバグを悪用して他のプレイヤー共をハメ殺す事を何度もしてきたが、最後はやはり飽きてしまう。他のプレイヤーからはチート野郎扱いだ。 そして私は今説明した椅子バグが、この夢のゲームの世界ではどのような状態にあるのか非常に興味があり、バグを再現してみる事にした。 まず椅子に座り38回応援する。 『アサヒは椅子に座った!』 『アサヒは応援した!』 『アサヒ:ガンバレ♩ガンバレ♩』 『アサヒは応援した!』 『アサヒ:ガンバレ♩ガンバレ♩』 『アサヒは応援した!』 『アサヒ:ガンバレ♩ガンバレ♩』 『アサヒは応援した!』 『アサヒ:ガンバレ♩ガンバレ♩』 …以下略 『アサヒは寝転んだ!』 グタッ… 寝転んだ瞬間、私の肉体の挙動が突然おかしくなり全身ブルブル震えながら、ゆっくりと空中に浮いて上がって行く。 どうやら私が見つけて修正されたはずのバグは修正前に戻っているようだ。 ブルブルブルブル!ビクンビクン! スポンッ!(!?!?) 私は浮いたまま、そのまま武器屋の屋根を貫通して、スポンッ!と音がしたかのように、屋根を貫通しながら通り抜ける。 次に屋根の上に着地成功したのであれば、武器屋の屋根の中心に移動する、そしてコマンド「はなしかける」を実行する。 『アサヒは はなしかけた!』 「いらっしゃっいませ」(!?!?) 店員は驚いたような裏返った声で私のコマンドに答えた。 店員は恐らく家の中から外に居る私に向かって話している状態なのであろう。 しかも今の時刻は深夜0時過ぎ、店は当然閉店時刻だ。 そして普通であれば当然の事だが、店のドアを開けて家の中に入ってから店員と会話する必要がある。 が、今は閉店時刻なのでドアは施錠されている。 だが私は今、屋根の上というバグっている場所に居る。 そのため店内に居る店員との距離が近いためか、屋根の上でも会話が出来てしまった。 恐らく店員は自室のベットで寝ている状態から、バグを使って「はなしかける」を実行出来てしまった私が居たため、無理矢理会話をする羽目になってしまったのだ。 店員からすれば傍迷惑な話だ。 そして突然、屋根越しに話しかけられた方としては誰だって驚くだろう。 本人からしてみれば、話し相手が誰1人として存在しないはずなのに、気が付いたら屋根に向かって語りかけているのだから。 しかしいつ如何なる時も、プレイヤーから話しかけられてしまった場合、答えるのがNPC達に課せられた義務である。 そして私は店の在庫が空になるまで、全ての商品の武器を購入する。 「店員よ、この店の全ての武器を売ってくれ。勿論、店の在庫が空になるまでだ」 そう言った私は誰も居ないはずの武器屋の屋根から店員の返事が返って来た。 「かしこまりました、合計0ゴールドとなります」 (!?!?、くっ、口が勝手に!?。0ゴールドだど?。一体何が起こって!?。私は誰と話しているんだ!?…) 武器屋の店員の心の中の叫び声が聞こえた。 確かに店としては大損害だ。 だがNPC相手に変な同情心はない。 彼等は所詮ゲームシステムが作り出したシステムの1部に過ぎない。 私が今所持している武器は以下となった。 ・鉄の剣 x 10 ・銅の剣 x 15 ・木の剣 x 35 ・こんぼう x 17 ・きのぼっこ x 99999999 最初の村の武器屋のため、5つの商品しか置いていなかった。 売れば金にもなる。武器が再入荷したタイミングで、再び武器屋でバグを使って爆買いして売るを繰り返し行えば、無限に金が手に入るが、とても気の遠くなる作業だ。 そんなバグより、もっと金になるバグを私は知っている。そしてそのバグは修正されたはずなのだが、恐らくこの世界には健在しているのだろう。 何故ならここは私がデバッグしたゲームの世界の悪夢だからだ。 私のデバッガーとしての実績が全て台無しにされた世界。 故に、私が発見したバグは全て修正前となり健在しているのであろう。
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