【重要】《不具合のお知らせ》:旅立ちの村の井戸の前で4748回ヘッドスライディングした後、3時間2分16秒間、西方向を向いていると、魔王が弱体化した状態で、井戸にハマった状態で出現するようです。

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だが夢にしては妙に現実味がある事に、私は違和感を感じていた。 それはこの私の知っている「アリス・オンライン」のゲームの世界にしては、NPCの会話システムが、あまりにも違っていて、これはなんと例えるべきか、まるでNPCと会話しているのではなく、本当の人間と会話しているように思えるのだ。 確かに「アリス・オンライン」の会話生成モジュールは、よくできていた。 最新のニューラル・ネットワークの技術を使用した人格生成システムは、限りなく自然な人間の会話が成り立つようプログラムされていて、ゲームだと知らず初めて会話した場合、相手が機械ではなく本当の人間と間違えてしまう人もいる程だ。 が、しかしそれにしてもだ。機械としての限界は当然存在し、時折会話が成り立たなくなる場面は発生する。 私がNPCの異常を最初に検知したのは、宿屋の店員と初めて会話した時だ。 私は試しに、宿屋の店員におかしな質問をしてみたのだ。 「おいおまえ、私の姿を見てくれ。こんな長閑で平凡な村だってのに、私の格好ときたらこれだ。剣が3本も腹にぶっ刺さったまま、ビクンビクンと挙動不審に震えている。そんな私の姿を見てなんだおまえのそのアホ面は!。私が長閑で平凡な雰囲気をぶち壊す「KY」だとは思わないのか!?ええ?」 当然この剣が3本ぶっ刺さったままの状態で無傷なのは、私が使用したバグである。 このバグを使うと本来1つしか装備出来ない武器を複数装備する事が出来る。今は3刀流だ(!?) しかも攻撃は素手で殴るだけで、武器3つ分のダメージが加算される。 これも想定外の装備状態をバグで生み出してしまった結果、連鎖発生してしまったバグだ。 ちなみにこのバグはデバッグのスケジュール期限3日前に発見され、再現(バグらせる)方法が割と難しい部類だった。 再現方法はまず素手で攻撃を行う。そして素手攻撃のモーションが完了する前に即座に装備ウィンドウを複数表示し、武器を複数装備しようと試みる。 するとなんという事か。素手攻撃中なのに武器が複数装備出来てしまうではないか。 しかも本来1つしか装備出来ないはずの武器を複数装備出来てしまう。 そして何故か装備された武器の位置は決まってキャラクターの中心、つまり腹に剣がぶっ刺さったまま、挙動不審に武器がブルブルと震えている状態なのだ。 正しい装備位置は通常の大きさの剣の場合、背中に剣の鞘が表示され、そこに剣が収まるのだが、これは通常の方法ではなく、バグにより装備されたため、間違(バグ)った場所に剣が表示されてしまっているのだ。 そして今は3本までしか装備されていないが、それ以上もバグに慣れて来た者であれば頑張れば可能だ。 このバグは一見バグを上手く確実に発生させるには、かなりテクニカルな操作と、シビアなタイミングが求められるため、難しいように見えるが、実は最も簡単にバグを発生させる事が可能で、大きな効果が期待出来る方法がある。 それはまず、特定の敵との戦闘中、敵の技に「スロー」という魔法があるのだが、 これをわざと受けて、自分がスローというデバフが付与された状態にする。 このスローの状態で素手攻撃を行い、素手攻撃が完了するまでに装備ウィンドウを大量に開く。この時自分は「スロー」の状態であるため、自分の素手攻撃が終わる時間が通常の3倍も遅い。 そのため素手攻撃が終了するまで、たくさんの武器を装備出来てしまうのだ。 自分は最高10本の剣が腹にぶっ刺さった状態になるまで成功した事がある。 そういう事で話を宿屋の店員に戻そう。店員が私に返答しようとする。私はこの店員が私の質問に対してどのような返答をするのかが非常に興味があるのだ。 3c06d7ab-36c4-4a45-9dfc-2a40c4dcec5a 「ひょえええええええええ!!!!」 ドゴンッ!!! 店員は剣がぶっ刺さった私が平然とした態度で話しかけた途端、裏返った声で叫ぶと大きな音を立てて後ろに転ぶ。 そしてゆっくりと起き上がり、まるで幽霊が見えてしまったかのような青ざめた顔で私の質問に答えた。 「ひいいっ!。腹に剣が3本もぶっ刺さっているのに、血が一滴も流れていない!。 ま!、まさかあなたはアンデットモンスターですか!?。 何故アンデットモンスターが、こんな何もない長閑で平凡な村に!?。 そりゃあ、あなたはKYですよ!。 普通アンデットモンスターはこんな安全地帯には発生しません!。 ここは旅立ちの村!、初心者冒険者が最初に立ち寄る村ですよ!?。 アンデットなんて強敵が現れたら、冒険者は間違いなく瞬殺されるじゃないですか!?」 ふむふむ。そこで私は理解したのだ。 このNPCは異常な知識を蓄えていると。 いくら最新技術のニューラル・ネットワークでも、ここまで自然な人間の会話が成り立つはずがない。 判断の決め手は私が言った「KY」についてだ。 このNPCは間違いなく死語である「KY」について理解していた。 KYなんて人間でも全く使う言葉ではないのに、にも関わらず、このNPCはその意味を聞き返さなかった。 しかもバグを使った私をアンデットモンスターに例えただと? 一体どこまで機械の知識表現レベルを超えているのやら…。 もうコイツはどうみてもおかしい。 私の知っているアリス・オンラインではなない。 と、私は感心して頷いていると、宿屋の店員は急に衛兵を呼び出した。 「衛兵さーーーーん!。こっちです!、ここに、腹に剣が3本もぶっ刺さってる、頭のおかしいアンデットがいますよー!!!」 腹に剣がぶっ刺さってる事は認めるが、私の頭がおかしいだと?、それにアンデットモンスターだと本気で思っていたのか!?。 ふざけるのも大概にして欲しいものだ。私は人間だ。そして至って普通の人間の1人だ。 貴様のようなNPCの分際で、人間ではなくモンスターであるなどと言われる筋合いは無い。
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