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「・・・・と、言うわけだ、ヒカリ。さっさと村へ行って、その悪ガキを母親の元へ帰してやるぞ」
私はヒカリに、グリフォンをテイムした経緯について話した。
ヒカリは密猟者の森で発生したバグについては知っている事だろう。
あのバグのせいで、不具合修正前のアリス・オンラインのベータ版をプレイしたユーザーの間では、いかに強いモンスターをテイム出来るかは、本来の攻略方法である、レベル上げや、テイム全般に関するプレイヤースキルを上げるよりかは、どこまで効率よく、遠い場所から最短ルートで、密猟者の森まで最強のモンスターを誘き寄せれるかが重要となった。
つまり、このバグのせいで、本来のテイムのやり方は不要となり、バグを悪用した間違った方法でテイムする方法が主流となってしまったのだ。
そして、このバグを発生させた人物、また修正した人物とは、今私の目の前で憤慨しているヒカリ本人である。
彼女はどうやら、私がまたバグを使った事に対して激怒のようだが、そもそも彼女がバグを発生させなければ、このような事にはならなかったのである。
つまり、彼女は自分のしでかした過ちを再び掘り起こされた事に機嫌を損ね、私に八つ当たりしているだけの、なんだかとても残念な人となっているのだ。
「コラァーーッ!!アサヒー!(怒)。またあたしの許可無くバグを使ったわねー!?」
「いやいや……。バグを使うのは私の勝手だろう。何故おまえは、そこまでバグを使う事に否定的なのだ」
「いいわ!。この際だからはっきりと言ってあげる!。アサヒ、あんたはバグの本当の恐ろしさを知らないのよ!。
そんな調子だから、少しでも面倒な事が起こる度に、あんたは何でもバグで解決しようとするのよ!」
何でもではないだろう。その点については、話を盛っただけだと見る。
恐らく、ヒカリはバグの悪影響を恐れているのだ。
「多少のリスクがあるというのは承知の上だ。
つまり、おまえが言う、その危険性とはこういう事だろう。
バグはその性質上、連鎖する傾向がある。
そしてその連鎖が大きくなればなる程、世界の理さえも狂わせてしまう程の規模となる。
だが、そんなヘマをやらかすのは素人だけだ。
私が今まで何をして来たか、おまえなら、わかるはずだ。ヒカリ。
私とおまえは、このゲームの開発者。
共に、このゲームを知り尽くしている仲だ。
おまえもそこにいたのだからな。知らないとは言わせないぞ」
私はそう言ってヒカリを睨む。
ヒカリは歯を食いしばっているようだ。
しかしその悔しさは、私や仲間を想っての事なのだろう。
私はおまえの考えを尊重しよう。だが、おまえの言っている事がいつ如何なる時も、必ず正しい訳ではないし、それは私にも言える事だ。
必要なのはバランスだ。
さっきおまえは、私が何か困った時は、「何でもバグで解決する」と言っていたが、その必要はない。必要な時だけ使えば良いのだ。
バグを使うというのは1つの選択だ。
いつ如何なる時も、それを選ぶのが正しいとは限らない。
私はそれを理解している。
だがヒカリ…おまえは…。
「どうしたヒカリ、何も言い返せないのか?。
であれば、おまえが何も言い返せない理由を教えてやろう」
「うるさいっ!!!!。このわからずや!!!」
ヒカリはそう叫ぶと、目に涙を浮かべ、走り出した。
「・・・・・」
ヒカリがどこかへ立ち去った後、先程から私とヒカリの会話に耳を立てていたアリスとライカは、まるで私が悪いと言いたい様子で、こちらを見る。
「ん………。喧嘩をしているのは、いつもの事だけど、今のは酷すぎ。
アサヒ……。謝りに言って」
ちっ…何故私が。
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