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村人達は、アークグリフォンに言われるがまま、皆顔を上げ、上空を見渡す。
だが、夜空は真っ暗で、雲に覆われているためか、星すら見えない。
上空を見ていた中年の男性の1人は、額に汗を浮かべて、その恐ろしい程、静かな夜空に向かって、何か異変はないかと、眼球を左右に動かす。
ビュンッ!!!………。
一瞬強い風が、全身を通り抜けた。
まるでその風の音は、自然現象が引き起こした物とは、違っているようで、何かが空中を通り抜けた時に起こる風のようだった。
それは先程、暗闇へと逃げて行った男性が、見えなくなった時と、同時に吹いた風の音ともそっくりだった。
男性は思った。間違いなく、あの、アーク・グリフォンの他に、この村に真夜中の殺し屋が潜んでいると。
そう思った時だった。
男性の頭に一滴の雫が、ポタッと音を立てて、落ちたと同時に弾けた。
雨だろうか……。だがその雫は、雨のような冷たさはなく、寧ろ、自身の体温と同じくらい生暖かい。
男性は不思議に思い、自分の頭に手を伸ばし、それをつまみ、親指と人差し指で擦って、その液体の正体を確かめる。
その液体は水のように透明では無かった。
ドス黒く濁っていて、鉄の匂いがした。
血だ………。
男性は恐る恐る、その血が降って来た上空を見上げる。
上空で動めく物体を、僅かにだが、捉える事が出来た。
男性は、それを指差し、他の村人達に奴等の居場所を教えようとするが、恐怖のあまり、腕がブルブルと震え、その指先が、何を指しているのかさえ、わからないくらいだ。
ちょうど、夜空を覆っていた雲が、徐々に村から離れて行き、月が見えて、夜空を照らした。
男性が指差していたのは、上空で、肉の塊を奪い合っているグリフォン達だった。
恐らく、あの肉の塊は、先程逃げ出した男性なのであろう。原型は既に留めておらず、頭が何処で、足がどこかも不明な程、酷い状態に成り果てていた。
バサバサと上空で、肉の塊を千切り合う、2頭のグリフォンが暴れ、その際に肉片の一部が、ボトッと音を立てて、男性の目の前に落ちた。
前歯と鼻が半分程になっており、少し上に目玉が付いている。
「ひぃいいい!!!」
男性はその、おぞましい顔の一部を見たため、悲鳴を上げると同時に後方に倒れ、尻餅をついてしまう。
そんな恐怖に怯えた、村人達の反応に満足したためか、グリフォン達のリーダーである、アーク・グリフォンは、狂った声で高笑いする。
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