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「おい、そこのおまえ!。俺の話を聞いているのか!?、この変態ヘッドスライディング女!」
「俺達はこの村の衛兵様だぞ?、逆らうとどうなるか、わかっているのか?」
衛兵2名はそう言うと、徐々に私との距離を詰めて来た。このまま接近されれば間違いなく手錠で拘束され、牢屋にぶち込まれるであろう。
…がしかし!
私は拘束される寸前でこう叫んだ。
「私と結婚してくれ!!!」
そしてその問いに何故か衛兵が即答する。
「否!!!」
(!?!?)
衛兵は即答した瞬間、俺は今何を言ったんだ!?というような顔で困惑する。
隣に居るもう1人の衛兵も、相方の衛兵が突然のプロポーズを断ったためかひどく動揺している。
実は今の衛兵の返答は「バグ」を使ったトリックだ。
このアリス・オンラインでは特定のNPCと結婚出来る機能があるのだ。そして子供を作る事も可能である。
そしてこの衛兵だが、実は結婚可能なNPCに設定されており、普段は交流を深め親密度をかなり上げないと、このようにプロポーズする事は不可能である…が。
なんということか、自分が衛兵から指名手配されている間に限り、このように敵対している衛兵に対してプロポーズコマンドが実行出来てしまう。
つまりこれはバグだ。
複雑なゲームシステムの因果関係が生み出した残念なバグなのだ。
衛兵としての機能だけでも色々と仕様が細く決まっており、そのためか結婚機能やら子作り機能やら犯罪プレイヤーへの敵対やら、その他大量の機能をてんこ盛りにした結果、衛兵NPCとしての仕様が把握し切れなくなり、そのため想定外のケースが多数出現し、このようなバグが起こったりするのだ。
そしてプロポーズコマンドを実行された結婚可能なNPCは、プロポーズに必ず返答しなくてはならないのだ。これは衛兵NPCも例外ではない。
これはアリス・オンラインのNPCの仕様であるため、何が何でもどんな状況だろうと鉄則である。
そして私は再びプロポーズコマンドを実行する。
このコマンドは相手がプロポーズでOKの返事を出さない限り、1人のNPCに対して最大3回まで行える。
そして3回以上プロポーズの返答を断られると…。
「私と結婚してくれ!」
「否!」
「私と結婚してくれ!」
「否!」
「私と結婚してくれ!」
「・・・・・貴様とはこれで縁を切る。すまない。俺の事は放っておいてくれ」(!?!?!?)
と言ったようにNPCからウザがられ、二度と出会えないNPCとなって、どこか遠い場所に旅立って行くのである。
しっかりゲームのバグチェックをしていれば、このようなバグは未然に防ぐ事が出来た。
もしそうであれば、本来は指名手配中にプロポーズなど行えない。
まあ普通にゲームを遊ぶプレイヤーからすれば、ほとんど起こりえないシチュエーションではあるが、私のようにバグを悪用すると、このように1人のNPCを永久追放出来るのだ。
私にロングスピアを向けていた衛兵は、そう言うと突然ロングスピアが挙動不審な動きでビクンビクンブルブルすると、そのまま地面にめり込んで見えなくなる。
恐らくNPCの状態(プレイヤーに対して敵対)から想定外のイベント(プロポーズ)が発生したため、NPC本来の正しい動作というものに辻褄が合わなくなった事が原因で、今のように挙動不審な現象が発生したのだろう。
挙動不審なのはランスだけではなかった。
今はその衛兵自身の肉体が、あり得ない方向に首が回転したり、手足が突然長くなったり太くなったり短く小さくなったりと、もはや混沌としか言えないような状態になっていた。
ブルブルブルブル!、ビクンビクン!
その恐ろしい現象を見た村人達は、皆げっそりとした表情で衛兵の最後を見届ける。
そして彼はもはや原型が人間ではなく平べったい何かになると、ビクンビクンと大きく震え、そのまま地面にめり込んで見えなくなった。
そして最後の1人となった衛兵を私は見た。
彼はこの世のものとは思えないような何かを見てしまったかのように酷く動揺している。
そして私は残りの衛兵に対して、プロポーズコマンドを実行する。
「私と結婚してくれ!」
「だが断る!」
「私と結婚してくれ!」
「だが断る!」
「私と結婚してくれ!」
「だが断る!」
「私と結婚してくれ!」
「・・・、明日行われる魔王軍との戦争が終わったらな。
俺は前線だ。
帰って来たら家族を作って大きな家を買って皆んなで暮らそう。
子供は2人欲しい。
なに?戦争が心配だと?。
心配する事はない。キミから貰ったこのお守りがある」
(!?!?!?)
バグ成功だ。このセリフもプロポーズに失敗しNPCが永久追放された時、最後に話す台詞だ。
衛兵は何自分で訳の分からない事を話しているんだと、いわんばかりの表情をすると、ランスを持ったままの状態で上着の胸ポケットに手を突っ込むと、何かを取り出そうとするが、ドデカいランスが肉体を貫通し、とても酷い状態となった。
そして彼も案の定、挙動不審に突然震え始めて、ビクンビクンしながらヒラヒラと空に舞って消えて見えなくなった。
こうして私は、このエリア一帯全ての衛兵を永久追放すると、この村は安全地帯ではなくなり、私の手配度は無効となった。
しかし今度は山賊供が村の中を荒らし始めた。
この村には衛兵が居なくなった事により、無法地帯となったためだ。
ここは私、不具合チート勇者であるアサヒの出番である。
この世界の不具合は私という存在ただ1人で十分だ。
不要な害虫である貴様ら全員、私が害虫駆除してやろう。
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