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ガサゴソ…ガサゴソ…
「ウヒョヒョ!。だれかいるかな〜?」
グリッグスの両目の眼球が、挙動不審にぐるぐると回転し始める。右目が時計周り、左目が反時計回りに回転している。
相変わらず何処を見てるのかさえ分からない、キモい眼球の動かし方だ。
そしてクチバシからは、腹が減っているためか、ヨダレが垂れている。
奴は、破壊した家の中に、人間の遺体が無いか、瓦礫を退かしながら確認しているようだ。
私は、グリフォンが索敵を行っている間に、バグの発動準備を着々と進めて行った。
まずはこの村にある、壁抜け出来る箇所に移動する。
壁抜けとは、ゲームバグの1種で、文字通り、キャラクターが壁を貫通して、通り抜けられてしまうバグの事だ。
壁抜けバグは、一般的なバグではあるが、応用次第では、非常に強力な武器にさえなる。
私は、この旅立ちの村で散々デバッグ作業をして来たため、壁抜け出来る箇所を全て把握している。バグの修正前は、壁抜け可能な箇所が49箇所もあったのだ。
そして、その中の内の14箇所に、壁抜けバグが応用出来て、奴をハメ殺す事が可能な場所となっているのだ。
また、このアリス・オンラインの世界は、バグ修正前のため、壁抜けし放題である。
私はグリッグスの死角となっている建物の壁に張り付くと、「踊る」エモートを実行する。
『アサヒ は 踊った !』
この踊るエモートは、壁抜けバグを実行するのに、優れたエモートだ。
何故なら、この踊るエモートのモーションには、踊っている最中、後ろに1歩下がるステップが含まれており、このタイミングでエモートを中止すると、自分のキャラの位置が、強制的に1歩下がった位置となるからだ。
つまり、壁に張り付いた状態で、壁と反対方向を向き、「踊る」を行った場合、自分のキャラが1歩分、壁にめり込んだ状態となるのだ。
そして私は、1歩下がった瞬間、「踊る」エモートを中止し、そして更に再び踊って、一歩下がった瞬間、「踊る」エモートを中止する………。
これを繰り返すと、どうなるか?
私は壁にどんどん深くめり込んで行き、スポンッ!と音がしたかのように、外側の壁から抜けて、内側の壁を通り越し、室内に侵入出来てしまった。
ふむ……。壁抜けバグは、しっかりと修正前の状態のようだな。であれば!。
私は、壁抜けバグを確認すると、次のバグの段階に入る。そう、基本的な壁抜けバグが出来れば、ここで壁抜けバグの応用が可能となるのだ。まあ、私なりに言い換えるとすれば、壁抜けバグの「連鎖バグ」だ。
私はもう一度、今の方法で、壁抜けバグを使用し、壁の中に自分をめり込ませた。
しかし、私は壁を通り過ぎる事はしないまま、壁にしっかりとめり込んだ状態のまま、そこでアバターエモート「寝転ぶ」を実行する。
「寝転ぶ」は、地面への着地判定があり、自分の1番近い地面に自動で着地(寝転ぶ)する事が可能だ。
だがしかし、今私が立っているのは、正しい地面ではない。壁にめり込んでいるため、通常では侵入不可能な、バグっている地面の上に立っているのだ。
この場合どうなるか?。
簡単な話である。バグっている地面は、地面としての役割を正常に果たせなくなるのだ。
そして、アリス・オンラインでは、バグっている地面に無理矢理着地しようと、「寝転ぶ」などを行った場合、それは地面として見なされなくなり、そのため、地面としての当たり判定が無視され、キャラクターが地面を貫通して、奈落の底へと落下してしまうのだ。
まあ、奈落の底に落ちるのは、生きて帰れなくなるからマズいが。実は、この壁の下には、地下部屋があるのだ。そのため、落下した私は、地下部屋の地面へと無事、着地出来た。
先程、私が壁抜けバグを応用出来る箇所が14箇所あると言ったのは、その壁の真下には、地下部屋や地下通路がある場所の事である。
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