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七月一日 (曇り、でもすぐに雨)
とうとう雨になった。ぐずついてはいたけれども…。梅雨なんだ、仕方ない。でも天気予報では、明日の筈だったのに。
だけど、雨の中の紫陽花はきれいだ。雨に打たれてる花を見てたら、今にも蝶々が飛びだしてきそうに思えた。白・紫・黄…と、色んな色の花があって。皆がそれぞれに個性を持っているくせに、キチンと紫陽花の花になっている。面白い!
いいんだ、もう。すぐに返事をくれたんだ。もういいんだ。誤解がとけただけでも。別に強い願望でもなく、できれば、、、という気持ちだったんだから。冷静に考えてみれば、そんなに簡単にメルアドを教えられるはずもない。でも……「スマホはもちろんのこと、ガラケーも持ってないんですよ」って嘘はやめて欲しかった。今どき、そんなことがあるわけがないことは、小学生でも分かることじゃないか。
いや、本当のことかもしれないぞ。かごの鳥だってことも、あるかもしれない。あんなに綺麗な女(ひ)性(と)なんだ。それこそ、誰が言い寄ってくるかもしれないんだ。だから、事務所が警戒しているんじゃないのか。
今夜はもの悲しい。断られたことがショックには違いないけれど、それよりも、独りよがりの夢に酔いすぎたことだ。部屋の空気が重いせいもあるだろう。
無限の宇宙に、何かが覆い被さっている、、、ってか。
しかし、何のために手紙を書いた? あの人に、ぼくのことを「坊ちゃんですね」なんて、言わせる為なんかじゃなかった筈だ。もっとも、こんなぼくなんかと話をしても、何の面白みもない。話題といえば、小説のことぐらいだし。気の利いた言葉なんて、書けやしない。だけど、答えてもらえなかったのが残念だ。
「歌っている時のあなたの心には、いったい何があるのだろう?」
どうして今日に限って雨なんだ! 部屋の中まで、どしゃぶりだ。何もかもが歪んで見える、濡れて見える。
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