六月三十日  (曇り)

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六月三十日  (曇り)

 決して恨みになどは思わない。それが当然だと思うんだ。ただ悲しいんだ、情けないんだ。手紙(ファンレター? それともラブレター?)を出して、今日か明日かと待ち焦がれ、十日目の今日、返事が来た。いや、手紙の軽さを怒っているんじゃない。三十枚近くに及んだ手紙に対する返事が、一枚の便箋に盛り込まれていた、そのことを怒っているんじゃない。手紙を書くことが苦手の人だろうさ。それはいい。  時候の挨拶に始まり、あの舞台の感動、そして彼女に対する激励。ここで止めておけばいいものを、ファンになりましたと終わればいいものを…。  つい、少女雑誌に連載された漫画の内容をダラダラと書き綴ってしまった。確かに、無名の歌手が大スターになるまでの紆余曲折が描かれ、真心の大切さを高らかに謳い上げる作品ではあった。けれども、現実とは余りにもかけ離れているだろう。第一、釈迦に説法じゃないか。それに何よりも、男たるぼくが、少女雑誌を読んでいることからして……。  仕方ないさ、断られても。だけど、偏執狂と思われたのかもしれない。さも迷惑だ、とでもいうような文面。そんなんじゃない、断じて! 純粋に、ファンになったんだ。応援したいんだ。  よし、もう一度だけ出してみよう。誤解されたままじゃイヤだ。誤解?…嘘を付け!
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