七月十五日  (曇り

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ

七月十五日  (曇り

 今夜も蒸し暑い。天気予報だと、明日は雨らしい。いい加減に、梅雨も終わってくれないかな。  最近、ホントにつまらない毎日だ。何にも身が入らない。わかってる。こんなことじゃ駄目だと思う。いつだって自分を鼓舞してる。だけど……。 *自作の一枚の絵を誉めてくれた人が、例え狂人だと告げられてもどうしても信じられなかった奴。信じたくないと言った奴。* *芥川龍之介著「沼地」のエピソードから  ぼくだって、自分の作品を誉めてくれた人が狂人だとは思いたくないし、よしんばそうだったとしても、きっと握手を求め「ありがとう!」と叫ぶだろう。  気持ちが治まらないや。吐き出せば楽になるって? ほんとかな、とは思うけど、聞いてくれるかい。  取引先に、主任とぼくが謝罪のために出かけることになった。十日前の納品ミスに対する原因調査そしてその事に対する防止対策報告を、あらためて口頭での報告を要求されたという連絡がきた。通常だと報告書をFAX送信して事足りるらしいんだけど、今回は相当なお冠だと営業が泣きついてきたんだ。相手先の課長から、主任とぼくが呼ばれた。二人で来いだって。  相手先に到着するな否や、開口一番「これだから、高卒は。一般常識ってものがないんだよ! 年上の者に対する畏敬の念をさ、ひとかけらも持っていない。そう思わないか」って、半分怒鳴り声だった。小柄な方で物静かなタイプの方だから心配ないよって、営業に言われてたのに。ぼくと主任と、そして営業の三人が平身低頭のお辞儀を続けて終わった。  帰りの車中に「社会というのは、理不尽だ。強い相手には逆らえないものさ」と、慰めのつもりだろうけど主任が声をかけてくれた。けどさ、腹が立つ。あそこまで言われる筋合いはない! なんで親まで引き合いに出すんだよ。さすがに言い過ぎたかって顔をしてたけど。部長だという人が来て、何か小声で話しかけてたけど。その後だもんな、口調が柔らかくなったのは。  にしてもさ、やっぱり大きい会社というのは違うなあ。大きな部屋でさ、どうなんだろう小さな体育館ぐらいかな。デスクが横に十列ぐらいあったっけ?そして一列に五台並んでた。それぞれにパソコンが置いてあり、男性も女性も画面とにらめっこしてた。そうそう、キーボードを叩くときに、文字の変換時かな、大きく手を上げて、タン! って激しく叩いてる男性がいたけど、イラついてる? それとも、くせ? なんにしてもあれじゃキーボードがすぐに壊れちゃうぜ。なんてぼんやりしてたら、主任に思いっきりお尻をつねられた。あれはぼくが悪かった。だけどネチネチと同じ事を繰り返すんだもん、あのおっさん。いい加減にしろ! って怒鳴りたくもなるぜ。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!