第二章

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 今日もそこそこの水揚げになると西本さんの教訓もむなしくいつもより早めに入庫してしまった。納金を済ませてタクシーを洗車していると珍しく隣の車番の松井も入庫して来た。松井もタクシーの洗車を始めるとやっかみ半分で「山路さんの最近調子よろしいですね。上客掴んだんですか。一人勝ちはずるいですよ」と絡んで来る。  何言ってんだそっちの調子の良いときは掴んだ遠距離客の自慢話ばかりしてといい気なもんだと松井を適当にあしらった。それより奥さんとはどうなんだと話を振ると松井は散々だと貶し始めた。延々と続く奥さんをこき下ろす松井を見ていると殴られると云う奥さんの話には真実味が帯びてきた。 「収入の大半を占めている奥さんをもっと大事にしてやれよ」 「あいつは直ぐ調子に乗るからこれぐらいが丁度いいんですよ」  と悪びれる様子もなく淡々と語っていた。 「それより山路さんはどうなんですか」 「何がどうなんだ」 「聞きましたよ一緒に暮らして居た人と別れた話を」 「それはおととしで一年以上前の話しだ」 「だから女はチヤホヤすると直ぐに調子に乗って我が儘になるんですから挙げ句の果てに亭主が気に入らんと別れる女が結構居るそうですよ」 「俺の場合は別な事情だ」 「それ以外に何があるんですか」  女に対して視野の狭い男だなあ。だからすぐ手をだすんだろうなあ。 「お前に云っても解らんだろうなあ」  そう言って先に洗車を切り上げると空いたスペースに移動させてあった軽自動車に乗り込んだ。その時に本郷美希から一週間後の期日を指定した貸切予約のメールが入って来た。もちろん了解の返信を入れた。そして居ても立っても居られず事務所に戻り休みを入れた。 「今から連休か月締めになったらまた慌てんでもええように今稼いどかな後で往生するぞ」と松本係長に半分脅しのように引き留められたが気になってそれどころじゃなかった。
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