君の声は中毒性が半端ないです

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「ピンクと白を一つずつですね、二つで六百円です」  アリスみたいな可愛いエプロンドレス姿の私は、在校生とその彼氏さんぽい二人組へ、カラフルなわたあめを渡す。  ああ、文化祭エンジョイされていますね。楽しそうで何よりです。さ、次の注文注文っと。  作り笑いでひたすらに綿菓子を売りまくる。今日の私は売り子。といっても、一人一時間ずつだからもうすぐ終わりだけど。  綿菓子屋さん改め、わたあめ屋さん(こちらの方がファンシーだと女子の意見により決定された)の前には、列が途切れる事なく続いていた。  今日は文化祭当日。  わたあめ屋さんは順調に売り上げを伸ばしていて、お客さんが途切れずに中々忙しい。  あと少し、もうすぐ交代の時間だとドンドン売る。ピンクに白に水色に、黄色に薄緑に淡い赤。  なんでも、キャンディを入れて作れるオモチャの綿菓子機と、普通の大量に作れる綿菓子機を両方リースしたらしく、カラフルな方は売ってるそばから消えていった。  しかして、白いノーマル? わたあめも中々に売れていて、売り上げは一年のクラストップになるかもしれない。わたあめを小さめのサイズにしたのも、成功の一因かも。  とはいえ、やはり飲み物系も強い。  わたあめ買って喉乾き、フランクフルト食べては喉乾き、色々見て回っては喉乾き…… 何かにつけて売れていく。  一方フランクフルトの売上は芳しくないようだ。悪くはないのだけれど、どうしてもお嬢様が歩きながら齧り付くというのは難しいみたい。  単価が高いから、男子生徒や父兄の売り上げでも結構稼げてはいるようだけどね。  ……フランクフルト、売れ残って安売りしたりしないかなー。あんなお肉、普通には食べられなそうだなー。美味しそうだなー。  わたあめを売りながらも、少し離れたフランクフルト屋さんが気になる私です。  だって、美味しそうなんだもん。お肉! おにく! 雲だなんて、腹の足しになるか!  一般庶民な私に、あのぷりっぷりツヤッツヤなお肉は目と鼻の毒だわ。  そうやって、チラチラちら見していると交代の時間になった。  いやー、売りまくりましたよ、わたあめ。  機械のリース代金だけある程度かかったけれど、材料はメチャメチャ安価である。  これは、一年生の売り上げトップ頂きね。  ふふふ…… 売上金って、クラスで分配なのかなー、どうするのかなー。  売上金をどうするのかは、金額が出てから決めようと学級会で言ってたし、そこそこの金額になっていたらどうするのか楽しみ。  出来れば、庶民にも嬉しいものだといいなぁ。 基本、ココの金持ちとはお金の使い方が違うのだ。  大体、文化祭のわたあめなんて、一本百円で十分なのに、三百円だなんて暴利だ暴利。  ま、縁日なんかよりは余程安いけれどね。  なんて、ぼったくりわたあめはともかく、文化祭前の看板描きもしたし、当日の店番もした! これで、十分クラスへの貢献は出来たと思う。  そう、例え、この後一緒に回る人のいないボッチだとしても、やるべき事はやったのである。  つ、辛くなんてないんだからっ!  ……しゃーない、お嬢様方とは表面上挨拶してもらえるだけで有難い。  校内を軽く見回しても、みんな何処と無く品が良い人達ばかりなんだから。  育ちも趣味もお小遣いだって桁違いなんだから、大人しく卒業まで静かに過ごそう。  だけど、フランクフルトの匂いには抗い難いー、一本いくらだろう?  ちょっと、ちょこっと、覗くだけ……  ジューシーな匂いに導かれて、フランクフルト屋さんの前に来た私。  一本七百円に躊躇いつつも、ごくんと喉を鳴らした時ーー 「よっ、フランクフルト二本」  私の頭越しに、いつのまにか後ろにいた彼が、フランクフルト屋さんの店番をしている男子に注文した。  びっくりして一歩左に引いた私は、後ろの知らない人にぶつかりそうにな慌てて避ける。避けようとしてよろけそうに足をもつれさせた。  そんな私の肩をグッと引き寄せて体を支え、私がぶつかりそうになった人に謝る彼。  ちょうど焼き上がったフランクフルトを受け取って、私の肩から手を離しても、そのまま下ろした左手で私の右手を捕まえて歩き始めた。 「えっ、あ、あのっ」  手を引かれるがままついていく私に、彼は肩越しに振り返る。楽しそうな声が、雲一つない青空を高く高く飛んでいきそうだ。 「売り子お疲れさん。っはは、スッゲー甘い匂いが染みついてる。時間あるだろ? そんな全身あまーくなるほど頑張ったお前は、俺と一緒にきゅーけー決定な」  そう言って、ニッと八重歯を見せて笑った。  ……だから、笑顔と八重歯と君の声のトリプルコンボに、私が逆らえるワケないのです。
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