君の声は中毒性が半端ないです

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 青空に、誰かが手放してしまったのか赤い風船が飛んでった。私はそれを彼の後ろから、夢でも見ているみたいにぼうっと見上げていた。  文化祭に、密かな片思い中の彼から誘ってもらえるだなんて。くじ引きでたまたま当たったとかじゃない。彼が、誘ってくれたんだ。  どうにも自分に都合の良い夢を見ているみたいで、私はただ黙って彼に引かれるままついて行った。 「よぉ、これ貰ってくぞ」  彼は迷いなくどこかへ向かいながら、通りがかった隣のクラスの店先で、彼の友人らしき男子からビー玉のサイダーを二本受け取って進んでいく。  左手は私と繋いだまま、彼の右手首にはフランクフルトの袋が下げられていい匂いを放っている。  お上品にもフランクフルト一本ずつに紙袋を被せて、二本買ったらビニール袋に入れてくれていた。  縁日とかだと剥き出しで渡されるのに、流石お坊ちゃん達のやる事は丁寧ねと、変に感心してしまう。  右手首にかけられた袋から突き出るフランクフルトの棒が歩く度に揺れて、彼の少し大きくて固い男の子な手が、サイダーの瓶を二本掴んでいた。  ……袋に下げたフランクフルトはともかく、キンキンに冷えたサイダーの瓶は、素手で持ってて手が痛くならないのかな?  手を引かれて歩きながら、そんな事が気になってチラチラと彼の手を見てしまう。  いや、勿論、みんなの前で彼に手を引かれているという事も、とても気になるし寧ろ気になり過ぎる。  実際、すれ違う何人もが、手を引かれて歩く私と彼をさり気なく横目で見ていく。  ……は、恥ずかしい! 夢じゃない現実なんだ。何なの? どうしたの? 公開処刑なの?? 「ね、ねえっ、どこいくの?」  思い切って、後ろから彼に声をかける。  彼は少しだけ振り返ると、にっと口元に笑みを浮かべて、悪戯っぽく告げる。 「イイとこ」  出店の並んでいる校庭を横切って、校舎の裏にある非常階段を上がっていく彼と私。  カンカンと音を立てて階段を上がると、一番上の踊り場で彼は止まった。気持ち良い風が吹き抜けて、少し火照った顔を冷やしてくれる。 「ここ、誰も来ないから人目を気にしないでいいぞ」  そう言うと、フランクフルトの袋を私に持たせて、サイダーの瓶を開ける。  シュワシュワと炭酸が音を立てて、水滴が瓶を伝って流れていく。  ずっとわたあめ屋さんの売り子をしていたから、喉が渇いていた。 「ほい、おつかれさん」 「あ、ありがとう」  差し出された瓶を受け取る私を見て、彼の口元が綻ぶ。  もう一本の瓶も開けて、サイダーを渡されたまま立ち尽くす私へ、乾杯のように彼の瓶を当ててくる。  ビー玉の辺りが触れて、カチリと小さく鳴った。  踊り場の柵にもたれるようにして、瓶を傾ける彼。  その喉がこくこくと上下して、どうしてか分からないけれど凄くドキドキした。  彼の声が聞こえてる訳じゃないのに、その少し膨らんだ喉を見ていると、なんだかドキドキしてしてくるのだ。
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