編入生

13/13
前へ
/14ページ
次へ
手強かった。 克人を下した隆志はしばらくいつも通りの動きをする事が出来ないほどの疲労とダメージを蓄積していた。 魔法剣の名家であるのに剣を壊しても動じず肉弾戦に持ち込まれたのは愚策だったとしか言いようがない。 本気を出すわけにはいかない状態で八氏族の当主を相手するのは隆志にとっても初めての経験だった。 体格を考慮してみると克人は隆志よりも何階級か上なのだ。 いくら魔法でガードを高めてもガードをぶち破ってくる克人の重い拳は隆志に多大なダメージを与える。 隆志は屋敷の軒下の縁台に腰を下ろした。 真沙美の足音を聞き取った。 コーラの瓶を二本右手に、左の方にはポテトチップスの袋を持っていた。 「……メタボるぞ……」 隆志は思わず呟いた。 同時に頭に鈍痛を覚え頭をさする。 真沙美がコーラ瓶で隆志の頭をぶっ叩いたのだ。 瓶にヒビが一切入っていないのをみると魔法も同時に併用させていたのだろう。 「あーら、レディーに向かってメタボるなんて失礼よー」 真沙美はカラカラと屈託のない高笑いをしてみせた。 (……突っかかったら負けだ……) せっかく良い隠れ蓑を見つけたのに手放してしまうのは勿体無い。 「わざわざ差し入れなんていらんぞ」 隆志は縁台で寝そべってみせた。 寝そべっている真横にコーラ瓶とポテトチップスの袋が置かれた。 しばらくここから離れないという意思表示だろうか。 腰を縁台に腰を下ろす音が聞こえた。 しばらく長い沈黙が訪れた。 沈黙を破ったのは真沙美の方だった。 「なんで大文字君は私のコーチを引き受けてくれたの?」 (俺の隠れ蓑にするためだなんて言えないよな……) 「いくら強い人間だって修行者だろ?君の父上に勝ったのは君も知っていると思うから言うけど俺は自分でも自分が強いと自負しているし、もう目指す相手がいない程の強さは持っていると思っている。これから俺が強くなるのには自分を倒していくしかない。それに最善だと思ったのが君のように強さを求めるものに自分の技を与えることだと言うかんじだな」 再び沈黙が訪れた。 「そっか。大文字君は強すぎるもんね。私なんて君にとっては赤子の手をひねるようなもんだしね。だから私悔しくて、大文字君をうちの道場に招待したんだもん。これからよろしくね。師匠」 真沙美は悪魔のような笑みを浮かべた。 「師匠って呼ぶな。今まで通り大文字君で良いよ。というか、そう呼んでくれ」 隆志は一気に疲れが押し寄せてくるように感じたのだった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加