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俺は力を大分抜いていた。
それなのに圧勝という結果だ。
ここ数年で俺に勝っていたのは俺の親父だけだった。
戦うたびに親父との思い出があふれでてくる。
親父と剣と剣、拳と拳をぶつけあっているのが習慣だった。
親父が殺された為、その習慣は消えた。
今は親父から受け継いだ術を亜空間で行使する他、その亜空間に世界を構築している。
人間を生命までも構築していく作業を何度も繰り返すことで完全治療魔術を完成させることを目指している。
完全治療魔法が使えるなら復讐を果たす中で重傷を負っても何とか生き延びる事が出来る。
それ以前に、現存する最上級回復魔法では治しきれない生命の根幹の核を治療する技能さえあれば親父を救えたという想いが俺を動かしている。
全く…俺は…今更何を…
回想に浸り続けている訳にはいかない。
今は魔剣学院の中だ。
私情は隠し切らなければならない筈だ。
今回楽勝で勝ってしまった事で注目を浴びることは間違いない。
本当はそれが狙いだ。
大文字として注目される事で、俺が九重 隆志であるという認識をさせない事にある。
その時、俺の肩に軽く衝撃があった。
振り向いてみると西田だった。
怒っているのか拳を爪が手に食い込むほど握っている。
「あんたが力抜いてる事ぐらい分かった。如何して本気を出さなかったの?そうしたら私なんか敵じゃなかったでしょ?」
これはブチ切れているな…
俺は頭を掻きながら言葉を探した。
瞬殺してしまうと、強さを見せつける事が出来なかったなどと正直に答えても納得しないはずだ。
力を隠した事がバレるぐらい何も思っていなかったが言い訳を探す羽目になるとは…
「…確かにそうだったかもな…だけどそれでは君の実力を測る前に終わってしまうと考えたって感じだ…」
歯切れの悪い答えを絞り出した俺を西田は睨んだ。
「私を測る?舐めていたとしか思えないんだけど?」
強さにプライドを持っていた西田にとって大文字の態度は屈辱を大きく感じさせるものだった。
舐められる理由は理解できる。
だが、プライドがそれを受け入れない。
すると大文字はいきなり豪快に笑った。
「西田だったか?お前が俺に勝てる実力が欲しいなら頭を使え?ここで無駄なプライドに縋るのはもったいないぞ」
ここまで言われた時、西田は力なく崩れた。
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