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見えない糸に引かれるように、指先が写真へと吸い寄せられていく。イサは導かれるままに指を動かし、写真の上を撫でるようにそっと添えた。
直後、辺りの景色がぐにゃりと歪んだ。木々の先端が地面へと向けられたかと思うと、渦を巻きながら黒い塊へと変化していく。地面と空の色が混ざり、周囲の色が複雑に絡み合い……気づいたときには、景色が変わっていた。
イサは真っ直ぐに伸びる道の中心に立っていた。道の両端には街路樹が並び立ち、鮮やかな緋色に染まった紅葉がいたる所に積もっている。
頭上を覆い尽くす赤い葉の一部が抜け落ちて、イサの前へと飛んでくる。ひらひらと踊るように落ちてきた葉を、イサは手のひらを差し出してそっと受け止めた。
「何故追ってきた」
葉が手のひらに落ちると同時に、中性的な声が前方から放たれた。驚いて顔を上げたイサの前に、黒いローブを纏った人影が立ち塞がる。
「全て忘れろ。お前には何もできやしない」
影が紡ぐ言葉はひどく平坦で、感情がこもっていなかった。
ーーあなたは何者なんだ?
心の中で語りかけながら、イサは影を睨みつける。警戒心を剥き出しにされてもなお、影は威圧感を隠そうともしない。
「私は心。彼女が望むままに、この世界を導く者。……お前と同じだ、我が半身よ」
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