変わるために

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 「何……で」  驚愕と恐怖の入り混じった影の顔がぐにゃりと歪んだ。肌の色と髪の色に白いもやが混じり、空間を巻き込んで渦を巻きはじめる。混沌とした塊は、少しずつ元の人型へと戻っていき……やがてイサがよく知っている、あの少女の顔へと変わっていった。  「……怖いよ」  少女の目に涙が滲む。イサに突き立てていた刃がゲル状になって崩れ落ち、元の細い腕へと戻っていく。  「戻ったって、私は一人。お父さんとお母さん、いつも喧嘩してて……怒鳴ってばっかりだもん」  泣き腫らした目で、少女がイサを見上げてくる。「君も知ってるでしょ?」と問いかけるような仕草に、イサはただ静かに頷いた。  「だから、戻ったところで私なんか見てくれない。私、帰りたくない。嫌な思いなんてしたくない。一人ぼっちはもう嫌なの……!」  溢れ出る感情を包み隠さず、少女はイサの胸へと顔を埋める。イサは少女の背中へと腕を回し、華奢な体をそっと抱き寄せた。少女の体には優しい温もりが宿っており、首筋からはどこか甘い匂いがした。  少女はこんなにも小さな体に、いつからこれほどの感情を隠してきたのだろう。イサは幼い子どもをあやすように、何度も少女の背中を優しくさする。  いつから、などと考える必要はない。彼女のことは、イサ自身が一番よく知っている。  守ってあげたい、とイサは強く思った。彼女が生きている限り、ずっと側で支えてあげたいと思った。その決意に応えるかのように、イサの口がゆっくりと静かに開かれる。
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