思い出の場所

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思い出の場所

 私は、何のために生きているんだろう。  雑踏ひしめくホームに立ちながら、望結はぼんやりと空を仰いだ。爽やかな青の下で、綿のような雲がいくつも漂っている。その下を翼を大きく広げた鳥が、風に乗って流れるように飛び去っていった。  列車の通過を知らせるアナウンスが、望結を現実へと引き戻す。数分前から何度も繰り返されている音声を聞き流しながら、望結は首に巻いたマフラーに顔を埋めた。背負ったリュックの肩紐が右側だけずれたのを感じ、肩を持ち上げて元に戻す。  きっかけなどなかった。月曜日の昼頃、いつも通り退屈な授業を受けていたときに突然旅をしたくなったのだ。  どうせ行くなら家族旅行ではなく、一人旅がいいと思った。なぜ急にそう思ったのかは分からないが、一度湧き上がった感情は日増しに大きくなって、翌日には抑えられなくなっていた。  行き先を那須野が原と決めるまで、それほど時間はかからなかった。水曜日の夕食時に両親へ告げると、電車を使えば日帰りで行けるからか、意外にもあっさりと一人旅を許可してくれた。  空気の塊が顔を叩き、騒音と共に鉄の塊が眼前を横切っていく。重い金属同士がぶつかる音が辺りを埋め尽くし、褪せた青や白、臙脂(えんじ)色が次々と視界に飛び込んでは過ぎ去っていく。  列車の最後尾が通過していくと、当然ながら騒音はぴたりと止んだ。穏やかな時を取り戻したホームは、列車が来る前よりも静かになった気がした。
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