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温かな吐息に乗って、少年の声が優しく耳元を撫でた。音は望結の中へするりと流れ込み、固く結ばれた心を丁寧にほぐしていく。
「はい……ごめんなさい。ちょっとぼうっとしてて……」
望結は肩を支える手に目を向けた。深緑色のセーターに包まれた腕を辿り、背後を振り返った望結の視界に声の主の姿が飛び込んでくる。
白い肌から覗く、夜闇を封じ込めたような黒い瞳が印象的な少年だった。歳は望結とほぼ同じくらいだろうか。耳にかかる黒髪がそよ風に吹かれて微かに揺れ、柔らかな質感が手で触れずとも望結に伝わってくる。顔に浴びる風がハーブのような香りを孕んでいて、望結はこの香りが少年から放たれていることを悟った。
望結の胸が微かに高鳴り、顔がほのかな熱を帯びる。困惑する望結を前に、少年はうっすらと紅色を宿した唇を静かに開いた。
「やっと会えたね、望結」
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