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その黒い闇は膨脹して弾け、飛び散った。
僕は今でもそう信じている。
それを初めて見たのは、その日の朝だった。
生まれ変わった新しい光が、町を照らし始めて間もない時間。
駅近くの駐車場の看板の下に、その黒いものはうずくまっていた。
それを見つけた時、正直僕は、どきりとした。
もう一掃されてしまったはずの夜の闇が、卵型に切り取られて、そこにぽんと置かれているような。それくらい場違いな、真っ黒の闇色だったのだ。
けれども、すぐにそれが1匹の太った猫だということがわかり、僕は安堵した。
何だ。ただの黒猫じゃないか。
黒猫は僕の思考を読み取ったかのように、いきなり僕のほうに顔を向けた。
その細い線のような閉じられた目は、ゆるりとカーブを描いていて、笑っているように思えた。
僕は、何か背筋がぞくっとするような不快なものを感じたが、相手はただの猫だ。
朝の眩しい光の中で嘘のように黒いから、不気味に思えるだけなのだ。
大体、見ろ。あの艶やかな素晴らしい黒の毛並み。
どっちかというと、それに反応しろ。猫好きだったら、確実に感動して泣いてるぞ。
僕は無理やり、自分の感覚を捻じ曲げようとした。
黒猫は笑った表情のまま、僕が歩くのに合わせて、顔の向きも移動させた。
それもまた不気味だったが、とにかく朝だ。先を急がねばならない。黒猫のことに構っている暇はないのだ。
僕は朝のルーティンを崩さないよう、足早に駅へと向かった。
1分でも遅れれば、いつもの電車に乗り遅れてしまう。
そうなれば、最終的に学校へのきつい坂道を息せき切って駆け上がる必要が出てくるのだ。
満員電車の一員となった頃には、僕はもう黒猫のことなど忘れてしまっていた。
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