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新幹線の中で大好きな女優を見つけた。
こういう時に声をかけるのは失礼かもと思ったが、気持ちが舞い上がっているので抑えが聞かず、無理を承知で握手を求めた。
快く応じてくれた相手にますますのぼせながら、うっとりとその顔を見つめる。
前はドラマに映画に引っ張りだこだったのに、最近あまり見かけから、こうして対面できてとても嬉しい。
そんなことを考えていた時、ふと、彼女があまり露出しなくなった理由を思い出した。
そういえば前に、撮影現場で倒れて入院したってニュースを見たっけ。
確かそのまま入院して、しばらく闘病生活をしていたけれど、惜しくも三十そこそこの若さで亡くなったと…。
握った手が急速に熱を失う。見つめた相手の美しい微笑みが、今は造り物の人形にしか見えない。
ありがとうございますと、そう言って手を離したいのに声が出ない。握った手を離せない。
なんとなく予感した。目的の駅に着く頃、俺は、握ったこの手と同じくらい冷たくなってこの世を去っているだろうと。
握手…完
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