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残業3時間目 今月も、残業時間が、もうヤバイ!
深夜のパソコン起動・・・
それは、明らかに残業している動かぬ証拠。
決して消えることの無い残業の痕跡・・・
頼みもしないのに、望みもしないのに、ただ機械的に、無慈悲なくらいに自動的に刻まれるパソコン起動の歴史。
過大残業やサービス残業などで摘発される会社がニュースで報道されることがある。
家宅捜査という名目で、いくつものダンボール箱を運び出す役人の姿をVTRが繰り返し映し出し、ニュースキャスターが嫌悪感丸出しの表情で、まるでブラック企業を断罪しています!みたいなコメントをしている。
ダンボールを運び出しているのは労働基準監督署の職員、ダンボールの中身は勤務記録やタイムカード、そして全員のパソコン・・・
労働基準監督署のガサ入れは何の連絡も、何の前触れも無く突然やってくる。
そして第一声がいつも「今すぐパソコンから手を離してください!」だそうだ。
なぜパソコンにこだわる?
パソコンの内部には、どんなに正確な勤務時間が刻まれたタイムカードよりも、社員達の労働に対する給与の基準となる労働勤務記録書よりも確実な労働時間の記録が刻まれている。
朝出社してパソコンの電源を投入する、
その日の業務が完了し、退社する直前にパソコンの電源を落とす、
このONとOFFの時刻が、すべてのパソコン内に、新品を始めて起動した時から刻まれ続けているからだ。
このパソコンON・OFF記録を入手した労基署にとって、
どれだけ忖度して記入されたタイムカードも・・
会社からの無言のプレッシャーで何度も手を加えられた労働勤務記録書も・・
まるで、すぐにバレる幼稚園児の嘘のように映ることだろう。
うちの会社もこの労基署対策の為か、勤務記録はパソコン起動時間が基準とするようにしたのはたったの3ヶ月前。
ただでも3Kと言われる建築業界の施工管理人の月末なんて、残りの残業時間との睨めっこである。
頼みもしてないのに、毎週のように会社から全員の残業時間が順位付きでメールで送られてくる、しかも明らかにオーバーしそうな社員の名前部分は赤文字にされ、「残りの残業可能時間○時間!」と太文字で目立つように書いてある。
そんな部下を持つ課長は、馬鹿みたいに対象者を呼びつけ、説教し、残業をオーバーしない為の計画書を提出しろと喚き立てる。
説教された対象者は、残業減らすためという名目で、まるで実現不可能で、夢物語の様な残業対策案を課長のOKが出るまで・・・
「残 業 し な が ら 書 い て い る!!」
ハッキリ言ってこの制度が始まってから支店内部はどうか知らんが現場でのモチベーションはダダ下がりだ。
支店の連中は終業時間直前に「この書類明日の朝までに提出。」とメールでしれっと送ってくる。
文句言ってやろうと会社に電話するともう帰っていない。
仕方ないから残業して書類作る。→なに残業してんだと怒られる。
腹が立つから書類作らず帰る。→次の日、現場の人たちが書類提出してくれないと社内で大荒れ。
現場の一人が残業出来ないんで帰りますと業務ほっぽり出して帰る。→
残された人達が残業して嫌々、帰った奴の業務をする。→
次の日、先に帰った奴でなく、残業して業務してた人達が怒られる。
パソコンログ制度が導入されてからの3ヶ月間、ずっとこんな感じだからみんな嫌になってくる。
なのに毎月のテレビ会議では「今月はこんなに残業が減りました!」と、現場でツラも見たことも無いような奴がドヤ顔で誇らしげにしゃべっている。
そしてトドメと言わんばかりに今月の残業時間ワースト3を声高らかにうれしそうに発表している。
そんな茶番のテレビ会議を、勤務時間越えてから見せられている現場の俺達は馬鹿馬鹿しいという感情しか湧かない・・・
そして残業ワースト1位の名が読み上げられる・・・
もちろん・・・あの人だ・・・。
テレビ会議の画面の中で、さっきも言ったように現場では一度もツラ見たことも無いような奴がここぞとばかりにあの人をディスってる。
やれ残業するのは能力が足りないだとか、段取り悪いだとか・・・
そんなテレビ会議の画面を、あの人はまるでゴミを見るような目で見つめている・・・
パソコンログ制度が始まって3ヶ月、あの人は常に中部支店で残業ワースト1位だった・・
そんな糞みたいなテレビ会議があったのが金曜日、そして俺があの人に電話して、現場に来てもらったのが2日後の日曜日・・・
そして俺は、あの人に日曜の夜中にパソコンを起動させてしまった・・・。
あの時俺が無理やりにでもあの人を帰らせていれば、いや!電話さえしなければ・・・こんなことにはならなかったかも知れないのに・・・。
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