残業5時間目 オススメの残業対策

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残業5時間目 オススメの残業対策

 寺橋の言葉が今の俺達の置かれている状況を的確に示していた。  確かに、俺達の残業時間は正確に言えば80時間なんて確実に越えている。  決して勤務記録には載らないのに、給料にも反映されないのに、みんな隠れて残業している。  こんなことをテレビ会議画面の向こう側で「今月はこんなに残業が減りました!」なんて発表している、現場でツラも見たこと無いような奴に言ったらどんな顔するだろう・・・  たぶん「そんなはずは無い!」と額に血管を浮かべて叫び散らすだろう。    そして「弊社はパソコンのログで勤務時間を一人一人管理している、だから残業の申告漏れなど無い!」と、のたまうだろう。  しかし、そんな勤務時間の管理方法では抜け道なんて幾らでもあるんだよ。  特にあいつは抱えている業務が多かったので色んな残業の抜け道を考案していたよ。  残業対策①   パソコンの電源を落とさない。  この方法、あいつが金曜日の夜によくやっていた。 これだとパソコン起動は金曜日の朝となる、そして金曜の夜、土曜日、ひどいときは日曜日までパソコンを堂々と使える。  会社には(金曜日の帰りにパソコン電源を切り忘れた、データのダウンロードに時間が掛かるのでそのまま帰宅した。)など説明しておけば疑いの目では見られるが、証拠が無いのであまり追求されない。  残業対策②   パソコンの必要な業務は6時まで、あとはパソコンを使用しない作業を夜に行う。  この方法、あいつは平日の水曜日によくやっていた(水曜日は会社のノー残業デーとなっているので残業の締め付けがキツイ。)  これだとメールや図面作成などのパソコン作業は出来ないが、手書きの書類や指示書の作成などは可能だ、しかもあいつは「現場に人がいなくて静かで良い。」などといって、次の工事の現場調査をバインダー片手に深夜までやっていた。    残業対策③   パソコンの内部時間を遅らせる。  この方法、パソコンの時間を2時間ずらしておけば、仮に夜10時にパソコンを切っても、ログ的には8時に電源を切った事になる。  しかし、朝8時にパソコンの電源を入れても、朝6時から働いてることになってしまうことや、メールの送信時間が狂うなどがあるため、あいつは早々に止めてしまった。  残業対策④   家に仕事を持ち帰ってする。  この方法、有効な対策方法だが、あいつは絶対に行わなかった。 さすがにそこまですると心がすり減ってしまう、家ではのんびりしたい。  とのことだった、まぁ当然ではある。  残業対策⑤   会社の共有機パソコンで仕事する。  うちの営業所には、テレビ会議で使用するためのパソコンが置いてある、あいつはこのパソコンを利用してよく仕事していた。  あの寺橋から電話を受けて日曜日の夜に出てきた時も、このパソコンで報告書を作るつもりだったんだろう・・・  ただ・・その前の日、日頃からあいつが会議用のパソコンを使用するのをよく思っていなかった営業所長が、パソコンのパスワードを変更してしまっていたのだ・・・  だからあいつは、月の残業時間を越えるのも分かっていたはずなのに、自分のパソコンを起動させざるをえなかったのだ・・・。  今、世間で叫ばれる残業対策。 同じ残業対策でも、俺達の残業対策は、意味がまったく違っていた。  続く
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