残業4時間目 ホワイト企業の裏側

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残業4時間目 ホワイト企業の裏側

 客先の無慈悲な要望のせいで日曜の深夜にパソコンを起動させるあの人。 自分の残された残業時間を誰よりも分かっていたはずなのに、パソコンを起動させざるしか無かったあの人の心境はどうだったのだろう。  うつむきながらも話をやめない寺橋、吹さらしの喫煙所に設置された灰皿には、あいつが最後に1本吸って行ったマルボロの吸殻と、俺と寺橋が積み重ねた吸殻でほぼ満タンになっている。  なのに寺橋は新たなタバコに火をつけながら話を続ける。 「うちの会社、決められている就業時間は朝の9時から夕方の18時じゃないですか、それに完全週休二日制、祝日も休みですよね・・・」  俺は先ほど買った、冷め始めたホットコーヒーを飲みながら答える・・ 「そうだな、内勤の事務職系の連中は、ホワイト企業のような待遇で働いてるよ。」  俺の台詞を確認するかのように寺橋が顔を上げ、静かだが怒りの篭った口調で言葉を吐き出す。 「内勤の連中はね!だが俺達現場の人間はどうだよ!朝も8時から朝礼で、夕方は職人さんたちが6時に帰ったとしても、その後の現場確認や、戸締り、そして明日の準備などで7時に帰ればかなり早いほうだ!」  寺橋の言うことは痛いほど分かる、俺達現場の人間は、平日普通に働いても朝の会社始業時間前の1時間、終業後の1時間の計2時間が勝手に残業扱いとなる、月に平日が20日間あったとしても、それだけで40時間の残業が勝手についてしまう。  「それに、現場なんて日曜は大体休みだけど、土曜・祝日は普通に作業しているじゃないですか!俺達、施工管理の人間は、現場で作業があるときは休むわけには行かないでしょ!」  寺橋が痛い所を突いて来る、うちの会社は名目上完全週休二日制、それに祝日も完全休日を求人広告でも唄っている、よく入社したての新入社員が「だまされた、こんなはずじゃ無かった。」と愚痴を溢すのはザラだ。  そんな土曜日、祝日に出社してしまうと、休日出勤ということで、すべて残業扱いとなる、1日出ただけで10時間の残業時間が加算される、だから祝日などが多い月はまさに地獄だ。  うちの会社が労基署に提出している36協定の残業上限は80時間。 だが俺達現場の人間は平日に勝手に加算される残業40時間、それと土日、祝日のどれか4日間出ただけで残業40時間、それだけで一発アウトとなってしまう。  「こんな人の少ない状態で残業80時間以内なんて収まるわけ無いじゃないですか・・なんでみんな分かってるはずなのに、知らん顔するんですか・・」  さっきまでとは違い、寺橋の声のトーンが徐々に下がっていく。 「ハッキリ言って、現場の人間はみんな残業80時間なんてとっくに超えてますよ、こんなんだったら現場の人間みんな罰したらいいじゃないですか・・ なのになんであの人だけ・・・」  寺橋の声が、冬の北陸の深夜に悲しく響き渡る・・・  続く
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