ぜひ、思い出に残る記念撮影を。

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 私が配属されていました店舗のスタジオには、カメラが三台ありました。  機種は伏せましょう。ごく一般的な撮影用カメラで、値段が中間レベル、と言えば、解る人には解るでしょう。  カメラには表面にテプラでそれぞれ、「1」「2」「3」と数字が貼り付けられていて、どれがどのカメラか一目で解るようになっていました。 問題のカメラは、「3」番のカメラです。  その日――七五三撮影の為に私は「3」番カメラを持ってスタジオに入りました。この店舗ではスタジオが二面あり、「1」番のカメラはもう片方のスタジオで別のカメラマンが使用中。そして「2」番のカメラは丁度修理に出したと頃でした。  私が担当するスタジオでは、すでに着物姿のお嬢様が、お父様、お母様に囲まれ「可愛い、可愛い」と褒め称されながら、上機嫌で千歳飴の袋をぱたぱた振っていました。  お爺様、お婆様と一緒に家族撮影する予定も伺っていましたが、まだお二人はお着換え中だったので、先にお嬢様の一人撮影から始めます。  ええ、店では希望されるお客様のご両親やご親族の方にも撮影時に着物のレンタルサービスを行っていました。七五三や成人式などの主役ご本人に関しては外への貸し出しも行っています。  アシスタントスタッフにも手伝ってもらって、撮影そのものは、滞りなく。七歳のお嬢様は、七五三の基本ポーズだけではなく、「こんなポーズが撮りたい」となかなか乗り気で。  どうやら小学校のお友達に、このスタジオで撮影された写真を見せられて、それでライバル心が目覚めたようでした。  そうこうしているうちに、お爺様、お婆様も着物姿でお見えになられたので、家族の集合撮影に入りました。  中央に主役のお嬢様。お母様は私から見て右側で椅子に座って頂き、左側にお父様。さらに外側にお婆様、お爺様という並びです。私はいつも通り、三脚にカメラを固定して、フレームを覗き全体のバランスを確認します。  家族撮影は、難易度が跳ね上がります。体や顔の向き、衣装や髪形の乱れ、レフ板の位置、アシスタントに細かな指示も入れて、そうして問題ないと確認した上でシャッターを切る。  無事終わった後は、それだけで一仕事終えた気になります。  さて、その家族撮影は少しいつもと違いました。ご家族に問題があったわけではありません。シャッターを切った時、カメラが少し震えたのです。故障かとすぐに撮影された画像を確認いたしましたが、手ブレもなく、笑顔のご家族が綺麗に写されていました。  私は首を傾げながら撮影に戻り、ご家族の全身写真をもう三枚。三脚からカメラを外して、バストアップの写真を三枚撮影しました。  撮影する度、カメラは手の中で震えます。特にバストアップ撮影の時は両手でカメラを握りますので、はっきりと解りました。  その動きが、なんといいますか…普通の振動とは違うんですね。  こう、一定の間隔でゆっくり。いち、に、いち、に。そして最後に大きく一回。何かに似ているのですが、この時点ではそれが何か解りませんでした。  わかったのはこの撮影が終わって、更に後。昼休憩に入った時です。昼休憩といっても、パートさん達の休憩が先ですし、昼前後は予約も集中しますので、十六時十七時にご飯にありつけるのがザラです。  他の支店では昼もまともに取れない日があるので、私のいる店舗はまだマシだったのでしょうけれど。
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