1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
黒猫との出会い
大学からの帰り道に、黒猫に出会った。
遺伝した色で縁起が悪いなんて言われる黒猫は不憫だ。ずっとそう思ってきたからかもしれない。
私は、黒猫を家へ連れて帰ることにした。
今夜は冷えるらしい。黒猫にあたたかい宿を提供したかった。
……いや、本当はひとりで過ごす夜がさみしかったのかもしれない。私の大学合格が決まった春、定年を迎えた父と母は海外で暮らしはじめた。
大学では、私は講義を受けるだけの人形のようになっていた。高校とは違い、教わる時間は長く学問の種類も圧倒的に多い。これが大人になるステップなんだろうか。
それでも、もし、いまもあの子が隣の家にいたら私はこう言っていただろう。
「大学生って忙しいんだよ」
そんな風に、私が毎日のように、彼をけしかけていたのがいけなかったのだろうか。
「おまえ、うちの子にならない? しばらく……いや、ずっといていいんだよ?」
「……にゃー」
黒猫の鳴き声は、やけに人間くさかった。おかしくて、笑みがこぼれた。私は黒猫を抱き上げると家路を急いだ。
黒猫の温もりを感じる。
懐かしい。彼もとてもあたたかった。私は嫌がる彼を、いつも抱き上げていた。彼とちがい、黒猫は私の腕のなかにおさまっている。
「おれ、はやくおとなになりたい」
不意に思い出した彼の言葉に、目頭が熱くなる。
ゆうちゃん。……ごめん。こう呼んだら、あなたはきっとまた不機嫌になるよね。
……裕樹くん。
できることなら、あなたの成長をこの目で見たかった。
……裕樹くん。どうして、あんな選択をしたの?
夕闇が迫る空を見上げても、答えは返ってこなかった。
歩きながら、何度もまばたきをした。泣いてなどいられない。私はもう、子供ではないんだから。
そう、私は子供ではない。
最初のコメントを投稿しよう!