黒猫との出会い

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黒猫との出会い

大学からの帰り道に、黒猫に出会った。 遺伝した色で縁起が悪いなんて言われる黒猫は不憫だ。ずっとそう思ってきたからかもしれない。 私は、黒猫を家へ連れて帰ることにした。 今夜は冷えるらしい。黒猫にあたたかい宿を提供したかった。 ……いや、本当はひとりで過ごす夜がさみしかったのかもしれない。私の大学合格が決まった春、定年を迎えた父と母は海外で暮らしはじめた。 大学では、私は講義を受けるだけの人形のようになっていた。高校とは違い、教わる時間は長く学問の種類も圧倒的に多い。これが大人になるステップなんだろうか。 それでも、もし、いまもあの子が隣の家にいたら私はこう言っていただろう。 「大学生って忙しいんだよ」 そんな風に、私が毎日のように、彼をけしかけていたのがいけなかったのだろうか。 「おまえ、うちの子にならない? しばらく……いや、ずっといていいんだよ?」 「……にゃー」 黒猫の鳴き声は、やけに人間くさかった。おかしくて、笑みがこぼれた。私は黒猫を抱き上げると家路を急いだ。 黒猫の温もりを感じる。 懐かしい。彼もとてもあたたかった。私は嫌がる彼を、いつも抱き上げていた。彼とちがい、黒猫は私の腕のなかにおさまっている。 「おれ、はやくおとなになりたい」 不意に思い出した彼の言葉に、目頭が熱くなる。 ゆうちゃん。……ごめん。こう呼んだら、あなたはきっとまた不機嫌になるよね。 ……裕樹(ゆうき)くん。 できることなら、あなたの成長をこの目で見たかった。 ……裕樹くん。どうして、あんな選択をしたの? 夕闇が迫る空を見上げても、答えは返ってこなかった。 歩きながら、何度もまばたきをした。泣いてなどいられない。私はもう、子供ではないんだから。 そう、私は子供ではない。
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