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おとなになりたかった
まだ日本から放ったスペースシャトルが片手で足りる数だった頃、『宇宙少年育成プロジェクト』が発足された。
国は、一桁の年齢の子供たちを宇宙ステーションに居住させた。
『宇宙という過酷な状況でも、人は成長をコントロールできるのか?』
これがプロジェクトの課題だ。
子供それぞれに、目標成長年齢を設定して、宇宙局職員の管理下で成長促進剤や栄養剤を投与させる……はっきり言って、人体実験だった。
目標成長年齢に達した子供から順に地球へと帰還するはずだった。しかし平成が終わっても、ひとりだけ戻れなかった。
……裕樹くんだけが戻ってこなかった。
裕樹くんの目標成長年齢は二十歳。宇宙へ旅立ったとき、裕樹くんは八歳だった。
「真希ねえちゃん……ごめんなさい。俺はズルをしたんだ。真希ねえちゃんより、年上になりたくて……早く大人になりたくてプロジェクトに参加したんだ。だから……促進剤を多めに飲んでいた。でも、職員にバレちゃったんだ……」
私は黒猫を抱き上げた。
これは裕樹くんの温もりだったんだ。
遠い、遠い宇宙から届いた、裕樹くんの温もり。
「ときどき促進剤や栄養剤を止めて、再開してを繰り返したんだけど……もうプロジェクトの資金が足りなくて……俺は、来月に帰還する。結局……結局、俺は大人になれないどころか、真希ねえちゃんともっと、もっと年が離れるんだ。ごめんなさい、真希ねえちゃん。俺、真希ねえちゃんのすぐ隣にいられるひとになりたかったよ……」
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