おとなになりたかった

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

おとなになりたかった

まだ日本から放ったスペースシャトルが片手で足りる数だった頃、『宇宙少年育成プロジェクト』が発足された。 国は、一桁の年齢の子供たちを宇宙ステーションに居住させた。 『宇宙という過酷な状況でも、人は成長をコントロールできるのか?』 これがプロジェクトの課題だ。 子供それぞれに、目標成長年齢を設定して、宇宙局職員の管理下で成長促進剤や栄養剤を投与させる……はっきり言って、人体実験だった。 目標成長年齢に達した子供から順に地球へと帰還するはずだった。しかし平成が終わっても、ひとりだけ戻れなかった。 ……裕樹くんだけが戻ってこなかった。 裕樹くんの目標成長年齢は二十歳。宇宙へ旅立ったとき、裕樹くんは八歳だった。 「真希ねえちゃん……ごめんなさい。俺はズルをしたんだ。真希ねえちゃんより、年上になりたくて……早く大人になりたくてプロジェクトに参加したんだ。だから……促進剤を多めに飲んでいた。でも、職員にバレちゃったんだ……」 私は黒猫を抱き上げた。 これは裕樹くんの温もりだったんだ。 遠い、遠い宇宙から届いた、裕樹くんの温もり。 「ときどき促進剤や栄養剤を止めて、再開してを繰り返したんだけど……もうプロジェクトの資金が足りなくて……俺は、来月に帰還する。結局……結局、俺は大人になれないどころか、真希ねえちゃんともっと、もっと年が離れるんだ。ごめんなさい、真希ねえちゃん。俺、真希ねえちゃんのすぐ隣にいられるひとになりたかったよ……」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!