クールな関係

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「なんて言うか、さっきも言ったけど持ちつ持たれつよ。英語で言えばギブアンドテイクね。そういうクールな関係でしょ?私たち。これは貸しよ、いずれ返してもらうわ。そういう時のための先行投資。わかるでしょ?」  ああそうだ。俺たちは困った時はまぁそこそこ助け合ってきたな。貸し借りの関係をずっと築いてきたんだった。だったらいくらか手を借りても問題ないか。 ギブアンドテイク、借りを作ったら返す。相手の為というより自分の為の先行投資、そうだ、そういうクールな関係だ。  俺は顔を戻し、小さく頷いた。 「わかったようね。あんたが元気になってくれないとそういうこまごました貸し借りができないでしょう?得意分野、苦手分野の分担とか時間がない時の代役とか、そういう都合の良い相手が使えない状態だと困るのよ。  そう宣言する相手の目を受け、俺は差し出された吸い飲みの前に口を開いた。相手はやけに慎重にそれを俺に含ませた。  水気がなくなって半ばべとべとになっていた俺の口内に清流のような潤いが押し寄せる。ああ、なんて心地よいんだ… と思ったのもつかの間、俺は盛大にそれを辺りにまき散らした。  制服を汚された彼女の鉄拳制裁を覚悟したが、むせている最中の俺は防御態勢などとれない。ところが飛んできたのは別の物だった。 「ごめん!ごめん!」  なぜか謝罪の言葉と背中を撫でる手、おいおいどうしちまっているんだ。やっぱ俺は熱で夢でも見ているのか。ん?制服?そう言えば制服じゃん。 家が向かいだってのにかばんも置かずに来たのかこいつ。  俺がようやく相手の顔を見ると泣きそうな顔が見えたが、熱でぼやけてそう見えたんだろう。焦点が定まったらちょっと不機嫌そうな顔だったからな。うまくいかないからって怒るなよ。こっちだって好きで失敗してんじゃないんだから。 「とにかく、進行中のオペレーション、完遂しないとね。」  オペレーション499の事か? 「オペレーション4970(ヨクナレ)。水飲めない可能性も想定済みよ。」  俺が新たなオペレーションを理解しようとしている間にこいつはガラス皿に何かをぶちまけていた。 「はい、口開けて?」 なんだそれは…  「ほら、あ・け・る!この貸しは大きいからね?利用し合うクールな関係でしょ?遠慮しないの。あ~んっ…!」  俺がつられて口を開けるとこいつは小さなスプーンを俺の口にそっと入れた。  ああ、なんだかフルフルしたものが粘度を伴った口の中の熱を優しく奪ってゆく…。今再びのひんやり…。やわらかくて優しくて、慈愛に満ちた角の立たない温度の絶妙の涼しさ。  うんざりする暑さと悪寒の中でこういうのを俺は求めていたんだ…。
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