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「おいし?」
味なんてわからねぇ…。けれど、これならむせる事なく水分を摂取できそうだ。ゼリー食品か、考えてくれたなクールパートナー。助かるぜ。
俺はその自覚がなかったのだが、こいつの口元がほころんだから何かしら喜んだ表情を浮かべたのかもしれない。
「ほら、もう一口。どうせ食事もできていないんでしょ?ちゃんと栄養入ったの選んできたから、しっかり食せよ?そして早く元気になって私に恩を返しなさい。」
そっとスプーンが突き出されると、俺は大人しく口を開けていた。
これを拒んだら借りが返せない。
そうだ、俺達ギブアンドテイクのクールな関係なんだ。
そういうクールな関係である以上スマートな対応をするのが筋ってものだ。
「早く良くなってね…。」
なんだかクールな取引をしている場にそぐわない表情を浮かべているこいつになぜか熱が上がるのを感じながら久しぶりに胃に入れる心地よい食事を続けさせてもらった。
「水分補給の意味もあるんだからね、ちゃんと食べてね?あ~ん…」
その足音に俺は気づいていなかった。
だから戸口に立たれてこの現状を見られていた事にも今気づいたんだ。
「息子よ、ちゃんとお礼は言ったのか?」
「おじさん。おかえりなさい。」
俺達の事務的でクールなやり取りを見られたところでまぁなんという事もないのだけどな。
「ありがとうね、手厚い看病してくれて。」
「そんなことありませんけど…」
おい、何動揺した顔してんだよ。何に対してしてんだよ。
「息子よ。」
俺が父親に顔を向けると相手は平然と言い放ちやがった。
「『あ~んっ♡』 アツアツだねぇ♪」
次の瞬間何かでかい物が階段を転げ落ちていく音が響き渡ったが、拳を振りぬいた彼女が耳まで真っ赤だったのは俺の風邪が移ったからなのかもしれないなとおぼろげながらに心配になった。
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