後始末

1/1
247人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ

後始末

「司、今何時だと思っているの? 電話一本で二日も外泊なんてっ」   日曜のそれも遅い時間に帰った僕はお母さんにこってりと説教された。それは外泊と言うものに親も子も慣れていなかったからに他ならない。  高校二年のこの歳になるまで祖父母の家にさえ一人で泊まりに行ったことが無い。その僕が週末塾をずる休みし、同級生の家に泊まったのだ。これであったことを詳細に語ったとしたらお母さんはひっくり返ってしまうだろう。  だって僕はファーストキスを交わした相手の家にお泊りして大人の階段を三段飛ばしで駆け上がったのだから。 「高梨君って一体どんな友達なの?」  お母さんは、息子が悪い友達に取り込まれたと思っているらしい。さすが僕のお母さん。それは当たっている。高梨は悪い友達どころか悪魔なのだ。  僕はその天使面した悪魔にすでに魅入られてしまった悪い子なので当然嘘をつく。 「高梨は学年で一位を多田と争っているやつでさ。勉強教わってたんだ。合宿しようって盛り上がっちゃって」  苦しい言い訳だと思う。しかも盛り上がったのは勉強でもない。ところが多田の名前を出した途端、お母さんの表情が緩む。別に多田とつるんでいるわけでもないのになんという知名度と信用だ。多田、すごいよ君。  何とか親を乗り切った次の朝、つまり月曜日。鬱々とした気持ちを抱えて僕は登校している。だって、金曜日の僕は色々と不審な行動を取り過ぎている。それを突っ込まれて上手く躱す自信はない。 「松本、お早う」 「お、お早う」  それなのに校門の所で待ち構えていたのは一番会いたくない相手多田だった。なんでそこに? いつも誘い会って同時間に待ち合わせして登校するなんて気持ちの悪いことをしているわけはない。  なので多田は理由があって僕を待っていたのだ。  嫌な予感しかしない。 「ちょっと話がある。すぐに終わるよ。あの裏手で話そう」  何とか逃げられないかと思うけどいい考えなんて浮かばない。グズグズと返事をしない僕に多田は、朝で誰もいないプールの陰を指さした。僕がついていくことを疑いもしないように後ろも見ずに歩き出した。そういった態度に不満を抱きつつ、まんまと僕は彼の思惑通りに動く。 「あのさ、多田」  呼びかけたものの、言葉が先に続かない。 「金曜の保健室で一体何があったんだ、松本」 「ええっと……」  ずばりと切り込まれて僕は返事に窮する。すると多田が労わるように僕の肩に手を置いた。 「ごめん。何があったかは音が漏れていたんで想像できている。高梨に無理やりやられたんだろ」  苦しそうに多田は唇を噛んだ。 「松本はどうして欲しい? 君のしたいように俺は手助けをしたい。知ってしまってどうしたらいいのか、判断がつかなくて」 「多田……」  ばれちゃったらどう言い訳しようと単純に思っていた僕は浅はかだった。高梨の一件で傷を受けたのは高梨だけじゃなかったのだ。  良かれと思ってやったことで高梨も多田も心に大きな傷を負った。きっとこの週末多田は眠れなかったんじゃないか。もう嘘で切り抜けるなんてしている場合じゃない。 「多田、僕さ付き合っているっていうか、付き合うことにしたんだ。け、啓と。だから気にしないで。心配させてごめん」  僕の肩に手を置いたまま、多田は驚いたように目を瞬いた。そして「そうなのか」と一人納得している。 「多田?」 「付き合うっていうのも無理やりとかじゃないんだな?」  念を押されてそうだよと言おうとしたとき、 「俺の司に何の用だ」  どすの聞いた低音が響いた。  多田の肩越しに見えたのは鬼の形相でカバンを地面に叩きつけるように投げる高梨だった。 「高梨、松本に手を出したのは俺への復讐じゃないんだな」 「違う。どっちかっていうと抜け駆けしたのは俺の方だから」  え? どういうこと?  何となく僕を挟んで対立する二人に置いてきぼりにされている気がする。美形が二人揃うと迫力あるし、見栄えもいい。でもちょっとお二人さん、僕だってここにいるんだよ無視すんなっ。      
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!